わが町にも学校を 植民地台湾の学校誘致運動と地域社会

著者名
藤井康子
価格
定価 5,940円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0239-7
仕様
A5判 上製 378頁 C3037
発行年
2018年10月
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内容紹介

日本統治下の台湾では1922年に第二次台湾教育令が公布され、中等以上の学校が日本人と台湾人の共学となった。これ以降、学歴社会化が進行し、都市部のホワイトカラーを中心に受験熱が高まっていった。しかし台湾では、中等・高等教育機関は統治者によりその設置を注意深くコントロールされていたため、学校数が日本内地に比して圧倒的に少なく、多くの地域に未設であった。そのような状況は、進学希望者のみならず、広く地域の住民にも問題視され、日・台双方の住民による中等・高等教育機関の誘致をめざす運動が地域単位で行われるようになった。

地域で学校が重視されたのは、進学希望者とは別の意図からであった。中等・高等教育機関の設置には、当該地域の人口規模や都市化の程度が斟酌される。ゆえに、これらの学校を有する地域は、人口が集中する都会として総督府のお墨付きを得たようなものであり、それがさらなる人口増加やインフラ整備の呼び水となり、地域の活性化が促進されるという循環の成立が期待された。この点で、中等・高等教育機関は地域振興ツールの役割を担っていたが、さらに学校の存在が地域全体の「文化度」や「格」の向上に資すると漠然と意識されていた側面もあった。

このように、ひとくちに中等・高等教育機関が必要だといっても、そこに込められるニュアンスは人によってさまざまであった。こうした展望のもとに、台湾において中等・高等教育機関はどのような存在だったのか、おもに進学希望者や地域住民の立場からその多様な意義を捉えてゆく。

目次

 凡 例
 巻頭図
 
序 章
 
  一 課題の設定:植民地下における中等・高等教育機関とは何か
    (1) 日本統治下の台湾で中学校に進学する、ということ
    (2) 地域に学校を誘致する、ということ
  二 研究の対象:一九二〇年代の南部台湾で何が起きたのか
  三 概念規定:学校を支える地域の有志たち
  四 先行研究の検討:抗日運動史研究とは異なるスタンスのアプローチの可能性
    (1) 学校教育にかかわる研究
    (2) 日本人植民者にかかわる研究
  五 構成と史料
    (1) 各章の紹介
    (2) 史料について:新聞記事と公文書から時代に接近する
 
第一章 「自治」意識の萌芽
 
  第一節 地方制度改正は地域のあり方に何ら意味をもたなかったのか
  第二節 五州二庁制はいかにして策定されたのか
    (1) もともとの構想
    (2) 「自治」度のトーンダウン  六県二庁から五州二庁へ
     1 地方団体の名称
     2 六県から五州への再編経緯
  第三節 地方「自治」制の導入
 
第二章 台南商業専門学校の存廃
       「継子扱ひ」される南部  
 
  第一節 島都に差をつけられた、元島都  台南州台南市の概観
  第二節 新しい、低度な「権威」  第一次台湾教育令下の学校事情
  第三節 格下の「専門学校」  台南商専の特徴
  第四節 「同等」を叶えるための学校  台南商専の社会的機能
  第五節 廃校告示の衝撃
    (1) 台南商専関係者の緊張
    (2) 日本人の苛立ち
    (3) 拭い去れない「継子」感
  第六節 専門学校を取り巻く環境の変化
    (1) 激減する台湾人学生
    (2) 閉ざされた教育機会  廃校告知後の台南商専
 
第三章 高雄街の成立と中等学校誘致
       斜陽の旧都を脅かす新興都市  
 
  第一節 速成された港町  高雄街誕生までの過程
    (1) 前史
    (2) 高雄街の誕生
  第二節 新興都市・高雄街における出入りの激しさ
  第三節 冷遇に屈した旧都  仮州庁舎設置をめぐって
    (1) 阿緱庁の廃庁
    (2) 仮州庁舎設置への期待と挫折
  第四節 廃庁の後遺症
  第五節 誘致合戦の背景
  第六節 格落ち感の払拭をめざして  鳳山地方で起こった運動
    (1) 運動の経過
    (2) 異なる世界、交わらない要求  鳳山地方の農民運動
  第七節 メンツ保持と経済利益への期待  屏東街で起こった運動
    (1) 寄せ集め住民の運動
    (2) なぜ誘致に失敗したのか
  第八節 マラリア騒動  いい加減な学校配置
 
【コラム1】高雄中学校入学の思い出
 
第四章 嘉義街の地域振興・中学校誘致運動
       燃え上がる地元愛  
 
  第一節 冷遇をものともしなかった旧都
  第二節 衰退を回避せよ!   置州運動の顛末
    (1) 廃庁の衝撃と置州運動の開始
    (2)「繁栄策」の追加
  第三節 地元振興の担い手  街長・協議会員のプロフィール
  第四節 廃庁下の「繁栄」を求めて
    (1) 「繁栄策」の内容
    (2) 「繁栄策」の達成状況
  第五節 不満をエネルギーに変えて  中学校誘致運動の顛末
    (1) 運動の開始
    (2) 嘉義中学校新設へ
  第六節 「ファーマー」から遠ざかるために  中学校進学のモチベーション
 
【コラム2】KANO(嘉農)とKACHU(嘉中)
 
第四章補論 「狭き門」に群がる志願者たち
 
  第一節 入学率・定員充足率に見る入りにくさ
  第二節 公立中学校に入る、ということ  私立学校との対比から
  第三節 中学校を支えたのは誰か
    (1) 台湾在住者の職業傾向
    (2) 中学校を支える基盤
  第四節 準備教育廃止をめぐるドタバタ
  第五節 再び地域に立ち返って
 
第五章 嘉義街から嘉義市へ
       「当て外れ」に終わった地元繁栄策  
 
  第一節 外地における市制施行とは何か
  第二節 運動の背景・担い手・経過
    (1) 運動の背景
    (2) 運動の担い手
    (3) 運動の経過  市制実施期成同盟会の結成と解散
  第三節 現状維持か「昇格」か  市制実施をめぐる有志間の対立
    (1)対立の表面化
    (2)双方のいい分
  第四節 嘉義市の誕生
  第五節 「自治」進展の可能性と限界  市制施行のその後
 
第六章 台南高等商業学校誘致運動の顛末
       台南市の「繁栄と面目」をめぐる駆け引き  
 
  第一節 機は熟した  高等商業学校誘致運動の開始
    (1) 台南商専生徒有志の趣旨書
    (2) 趣旨書への反響
  第二節 二転三転する運動のゆくえ
    (1) 高等商業学校新設案
    (2) 暗礁に乗り上げた計画
    (3) 高商新設をめぐる各紙の見解
  第三節 蝉脱羽化  台南商専から台南高商へ
    (1) 総督更迭と高商新設の実現
    (2) 台南高等商業学校設立の意義
    (3) 台南商専の廃校
  第四節 台南高等商業学校をめぐる思惑の差異の顕在化
    (1) 突然の廃校の消息
    (2) 台南高商存置運動
    (3) 徒労に終わった運動
  第五節 台南高等商業学校はなぜ廃校されたのか
  第六節 台南高商校舎のその後
 
第七章 台南高等工業学校の誕生
       「台湾人本位」の夢破れて  
 
  第一節 これからは工業だ!   高等工業学校創設の社会背景
    (1) 農業・商業から工業へ  産業政策の転換
    (2) 高等教育機関の再編
  第二節 工業を盛んにするために  台南高工設立までの道程
    (1) 設立の青写真
    (2) 高等工業学校をめぐる人びとの思惑
  第三節 日本人による日本人のための学校  台南高工の社会的機能
 
【コラム3】台南高等工業学校の台湾人学生
 
結 章
 
  一 学校誘致運動をはぐくんだ土壌
    (1) 地方制度改正:地域に向かう関心
    (2) 進学希望者の増加:学歴という拠り所
  二 地域の様相:入り乱れる利害関係
    (1) 高雄州高雄街・鳳山街・屏東街
    (2) 台南州嘉義街
    (3) 台南州台南市
  三 希望のベクトルの向かう先
  四 今後の課題:一九三〇年代以降の地域と中等・高等教育機関
 
 引用文献一覧
 あとがき
 図典拠一覧
 新聞記事見出し一覧
 索 引

著者紹介

藤井康子(ふじい やすこ)
 
2011年、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学、京都大学)。
現在、國立清華大學外國語文學系・天主教輔仁大學日本語文學系兼任助理教授。
近著として、「1920年代台湾における市制運動の展開―地方制度改正後の台南州嘉義街における
日・台人の動向を中心に―」(『歴史学研究』第918号、2014年5月)など。

書評

図書新聞 第3389号(2019年3月2日付) 書評 評者:山本和行(天理大学准教授)
 

書評

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