日本における教育学の発展史 教員の集合的属性に着目したプロソポグラフィ

著者名
鈴木 篤
価格
定価 9,680円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0343-1
仕様
A5判 上製 590頁 C3037
発行年
2023年2月
ご注文
  • 紀伊國屋
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • セブンネットショッピング

内容紹介

日本の教育学は長年、主に戦前期に活動した一部の著名な教育学者たちに目を向ける一方、戦前・戦後に活動した比較的有名でない無数の教育学者にはほとんど目を向けてこなかった。本書は、そうした日本の教育学という学問的ディシプリンに対し、伝記的データを用いたプロソポグラフィの手法によって検討対象の拡大を試みるものであり、主には戦前期の中等教員養成を支え、戦後日本の教育学者の多くを輩出し、教育学というディシプリンの再生産に大きな役割を果たしてきた諸機関に勤務した教育学者たち(計365名)の全体的な傾向を分析しようとするものである。すなわち、彼らの修学・教授・研究履歴に関わる情報を可能な限り収集し、分析することで、各機関に属した教育学者たちを集団として捉えた際の修学履歴、着任前の職業履歴、着任後の職業履歴、留学経験、博士号取得の状況、ジェンダー比率などの検討を本書では試みている。

本研究を通して明らかになったのは、「日本の教育学がドイツ教育学から強く影響を受けてきた」ことはたしかに間違いではないものの、実際には(教育学研究者たちの留学先や著作などからも明らかになるように)ドイツ以外の国々の教育学や教育思想からも強く影響を受けてきたこと、さらには(とりわけ戦後に細分化が進んだ各部分領域において)日本人研究者たちの多彩な興味関心や問題意識の中で教育学研究の裾野が見通し切れないほどに広がっていたことである。そもそも、「日本の教育学」は単数形で語りうるものではなく、さらには著名な教育学者の理論や思想の歴史として描き出せるものでもない。また、教育学研究者たちが勤務し、そして後進の教育学研究者を育成した機関にも、旧帝国大学と旧高等師範学校・女子高等師範学校、旧文理科大学などが存在し、さらに戦前期より存在する機関と戦後になって設立された機関などが存在した。これらは、それぞれに異なる特徴を有し、決して同質かつ相互に代替可能のものとして扱いうるものではない。そもそも、学問の歴史は単に理論や学説の歴史としてのみ描き出しうるものではなく、近年の科学史研究や科学社会学の研究が明らかにするように、研究・教育機関、学会組織など、様々なファクターを視野に入れて論じる必要もある。教育学研究の発展は、研究者の個人的営みとして生み出されるというよりは、教育学研究者たちの集団的・集合的活動の蓄積により生み出されるものなのである。しかしながら、日本の教育学は自らのディシプリンの過去をある面で「タブー視」し、過去に目を閉ざすことで、こうした蓄積をも振り返ることなく進んできたのだと言えるだろう。

目次

序章 本研究の課題と研究方法
 
 1.教育学という「知られざる学問」
 2.解明手法としてのプロソポグラフィの可能性
 3.研究対象と時期
 4.本研究の対象とする「教育学者」の範囲について
 5.使用した資料と取り上げられる情報
 
第1章 先行研究とその限界
 
 1.各機関において教育学の教授・研究に携わった者とその専門性
 2.教育学者の修学履歴
 3.教育学者の着任前職業履歴
 4.教育学者の離任後職業履歴
 5.教育学者の留学経験
 6.教育学者の博士号取得
 7.教育学者のジェンダー
 
第2章 各機関において教育学の教授・研究に携わった者とその専門性
 
 1.戦前期の帝国大学
  (1) 東京帝国大学文科大学・文学部、東京大学文学部
  (2) 京都帝国大学文学部、京都大学文学部
  (3) 東北帝国大学法文学部、東北大学文学部
  (4) 九州帝国大学法文学部、九州大学文学部
  (5) 京城帝国大学法文学部
  (6) 台北帝国大学文政学部
 2.戦前期の高等師範学校、女子高等師範学校、文理科大学
  (1) 東京高等師範学校、東京文理科大学
  (2) 東京女子高等師範学校
  (3) 広島高等師範学校、広島文理科大学
  (4) 奈良女子高等師範学校
 3.戦後の各大学
  (1) 北海道大学教育学部
  (2) 東北大学教育学部
  (3) 東京大学教育学部
  (4) 東京教育大学教育学部、筑波大学教育学系
  (5) お茶の水女子大学文学部・文教育学部
  (6) 名古屋大学教育学部
  (7) 京都大学教育学部
  (8) 大阪大学文学部・人間科学部
  (9) 奈良女子大学文学部
  (10) 広島大学教育学部・学校教育学部
  (11) 九州大学教育学部
 
第3章 教育学者の修学履歴
 
 1.戦前期の帝国大学
  (1) 東京帝国大学
  (2) 京都・東北・九州・京城・台北の各帝国大学
 2.戦前期の高等師範学校、女子高等師範学校、文理科大学
  (1) 東京・広島の高等師範学校
  (2) 東京・広島の文理科大学
  (3) 東京・奈良の女子高等師範学校
 3.戦後の各大学
  (1) 東京・京都大学の教育学部
  (2) 東京教育・筑波・広島大学の教育学部
  (3) 東北・九州大学の教育学部
  (4) 北海道・名古屋・大阪の教育学部・文学部・人間科学部
  (5) お茶の水・奈良女子大学の文学部・文教育学部
 
第4章 教育学者の着任前職業履歴
 
 1.戦前期の帝国大学
 2.戦前期の高等師範学校、女子高等師範学校、文理科大学
 3.戦後の各大学
 
第5章 教育学者の離任後職業履歴
 
 1.戦前期の帝国大学
 2.戦前期の高等師範学校、女子高等師範学校、文理科大学
 3.戦後の各大学
 
第6章 教育学者の留学経験
 
 1.戦前期の帝国大学
 2.戦前期の高等師範学校、女子高等師範学校、文理科大学
 3.戦後の各大学
 4.時代変化の中の留学先選択
 
第7章 教育学者の博士号取得
 
 1.戦前期の帝国大学
 2.戦前期の高等師範学校、女子高等師範学校、文理科大学
 3.戦後の各大学
 4.博士論文における検討対象
 
第8章 教育学者のジェンダー
 
 1.戦前期の帝国大学
 2.戦前期の高等師範学校、女子高等師範学校、文理科大学
 3.戦後の各大学
 
第9章 教育学者の伝記的記録
 
 1.1864年以前の出生者
 2.1865年〜1894年の出生者
 3.1895年〜1924年の出生者
 4.1925年以降の出生者
 5.出生年等不明者(推定されるおおよその出生年順)
 
終章 日本におけるアカデミズム教育学の発展史を振り返って
 
 1.量的に見た教育学者の全体像
 2.各機関の歴史的経緯と特徴
 3.教育学者にとっての留学と学位取得
 4.教育学者のジェンダー問題
 
 巻末付録 第2章・表
 参考文献一覧
 あとがき
 索引

著者紹介

鈴木 篤(すずき あつし)
 
九州大学大学院人間環境学研究院准教授(教育動態論)。博士(教育学、広島大学)。
大阪大学人間科学部卒業、広島大学大学院教育学研究科修了。兵庫教育大学教員養成スタンダード開発室、
大分大学教育福祉科学部・教育学部での勤務を経て現職。ドイツ教育学、S. ベルンフェルトやN. ルーマン
の理論を基盤に、学校教育や教育実践、教育学史の研究に取り組む。
 
近著論文に「科学システムとしての教育学と教育実践の関係性再考―N.ルーマン科学論における学問領域
の細分化過程と観察の多元性に関する議論から」(『教育学研究』、2022年)など。

学術図書刊行助成

お勧めBOOKS

若者言葉の研究

若者言葉の研究

生きている言語は常に変化し続けています。現代日本語も「生きている言語」であり、「…

詳細へ

犯罪の証明なき有罪判決

犯罪の証明なき有罪判決

冤罪はなぜ起こるのか。刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪…

詳細へ

賦霊の自然哲学

賦霊の自然哲学

物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこ…

詳細へ

帝国陸海軍の戦後史

帝国陸海軍の戦後史

近代日本のなかで主要な政治勢力の一翼を担った帝国陸海軍は、太平洋戦争の敗戦ととも…

詳細へ

構造振動学の基礎

構造振動学の基礎

本書の目的は,建物・橋梁・車両・船舶・航空機・ロケットなど軽量構造物の振動現象を…

詳細へ

九州大学出版会

〒819-0385
福岡県福岡市西区元岡744
九州大学パブリック4号館302号室
電話:092-836-8256
FAX:092-836-8236
E-mail : info@kup.or.jp

このページの上部へ