内容紹介
本書は,中国古代において近隣諸国を懐柔するために採られた外交政策として史上著名な和蕃公主の降嫁について論じようとするものである。中国の場合,いわゆる「隋唐世界帝国」あるいは「東アジア世界」について論じられる際,漢字・儒教・仏教・律令の四要素が重要視されてきた。しかし,儒教・仏教・律令がいずれも漢字と深い関係を有して伝播したものであるだけに,そもそも漢字を使用しない北方遊牧民族の場合には指標として当てはまらない。つまり,北方遊牧民族と隋唐との関係を考える際,これらの他に和蕃公主の降嫁が有する歴史的な意味に注目する必要性が生じるのである。さらに,唐代に限らず通時的に見てみると,和蕃公主の降嫁の実施は前漢の高祖劉邦の事例から始まったとされるものの,続く後漢魏晋南朝の時代ではその例を見ず,一方の五胡十六国北朝の時代において再開され,のちに隋唐での盛行を経るが,次の五代十国北宋の時代へ至るとまたほとんど行われなくなるという現象が認められる。では,このような消長現象が生じていたとすれば,和蕃公主の降嫁にはそれぞれの時代性なり特色なりといったものが存在すると考えられるのではないであろうか。
よって,本書では,従来の視点とは異なる角度から新たに和蕃公主の降嫁の実態を捉え直し,漢から唐という長いタイムスパンから見てそうした各時代の事例を可能な限り検証し,その歴史的な意味について総合的な観点から考察する。その上で,国際結婚すなわち婚姻に基づく外交政策である和蕃公主の降嫁というものが,漢から唐の各時代においていかなる時代性を付与されたものであったのかという,これまで一般には論じられることのなかった点について追究する。