思考する歴史教育への挑戦暗記型か、思考型か、揺れるアメリカ

著者名
川上具美
価格
定価 3,600 円 (税別)
ISBN
978-4-7985-0228-1
仕様
A5判 上製 340頁 C3037
発行年
2018年2月
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内容紹介

1990年代からアメリカで繰り広げられてきた、合衆国史は誰のものかという歴史論争の中で、歴史教育カリキュラムは、ある意図に沿って登場人物や出来事が選ばれ、再形成されていった。しかし、こうした意図的な選択からこぼれ落ちた視野からも歴史を考える力の必要性を訴える、アメリカの歴史学者ワインバーグの考えは、現在のアメリカ教育関係者の間で多くの支持を得ている。では、そうした歴史的思考力の育成は、カリキュラムや学校現場のなかでどのように体現されているのだろうか。

本書は、アメリカ、特にニューヨーク州とイリノイ州に焦点をあて、歴史的思考力をいかに育成しようとしているのか、またそれを妨げるものは何かについて、政策レベルから教員養成・実践レベルまで幅広い視角から考察し、明らかにしようとするものである。両州の歴史教育のカリキュラムやテストの分析、実際の学校教育現場の参与観察などを行いつつ、イリノイ州については、いかにして歴史的思考力を育成できる歴史科教員を養成しているのか、その方策についても論じている。

目次

  はしがき
  図表一覧
 
序 章 歴史教育と歴史学の間にあるディシプリン・ギャップ
 
 第1節 アメリカにおける歴史教育
  1 アメリカ歴史教育における多様性と統一性
  2 アメリカ歴史教育改革におけるディシプリン・ギャップ
 第2節 歴史的思考力
  1 アメリカにおける歴史学と歴史教育の関係
  2 アメリカにおける歴史的思考力の定義
  3 日本に内在する歴史学と歴史教育との間の軋轢
 第3節 調査および研究の方法
  1 調査対象
  2 研究の構造と調査および調査対象者
  3 調査の分析方法
 第4節 本書の構成
 
第1章 スタンダードによる教育改革
 
 第1節 アメリカにおけるカリキュラム改革の流れと多文化主義
  1 レリバンス運動から多文化主義へ
  2 多文化主義への批判とカリキュラムをめぐる政治的対立
 第2節 WASP中心史観による国民統合への回帰と歴史スタンダード論争
  1 WASP中心史観による国民統合
  2 ナショナル・スタンダードの策定
  3 歴史スタンダードをめぐる論争
 第3節 スタンダード改革と各州の取り組み
  1 クリントン政権における教育改革  学力低下への取り組み  
  2 スタンダード改革への各州の取り組み
  3 オバマ政権下でも引き継がれたスタンダード教育改革
 第4節 標準テストのもたらす歴史教育への影響
  1 歴史教育に浸透する教育改革
  2 社会科スタンダードと標準テストに対する教育実践者の反応
 第5節 スタンダード改革が歴史教育にもたらしたもの
 
第2章 認識論的歴史学へ回帰させる歴史カリキュラム  ニューヨーク州のカリキュラムと事例  
 
 第1節 州教育庁、教育委員会、学校区が定める教育目標の果たす役割
  1 ニューヨーク州教育庁とその教育目標(州スタンダードとコアカリキュラム)
  2 コアカリキュラム内容の分析Ⅰ  合衆国史分野  
  3 コアカリキュラム内容の分析Ⅱ  世界史分野  
  4 NY州スタンダードとコアカリキュラムの間のディシプリン・ギャップ
 第2節 ニューヨーク州における標準テスト
  1 「社会科(8年生)」「合衆国史と政府(11年生)」のテスト内容の分析
  2 「世界史と地理」の内容の分析
 第3節 行政の教育目標やテスト評価のもたらす歴史教育実践の姿
  1 ブルーノ先生の授業における生徒の関心
  2 マーカス先生による想像力を利用した授業
  3 ヒュース先生による政治漫画を使った授業
  4 グレイス先生による正答主義の授業
  5 パトリシア先生による説明中心の授業
  6 NY州の教育政策がもたらす実践への影響
 第4節 州スタンダードと標準テストの間にあるディシプリン・ギャップ
  1 批判的思考力を求める歴史スタンダードとのギャップ
  2 認識論に基づく歴史教育がもたらすもの
  3 2016年版NY州社会科カリキュラムの動向
 
第3章 イリノイ州における歴史教育カリキュラム  州スタンダードから教師教育まで  
 
 第1節 イリノイ州スタンダード
  1 作成過程および概要
  2 ゴール16(歴史)の考察
 第2節 学習成果として求められる能力
  1 州スタンダードを補完する評価基準
  2 社会科パフォーマンス評価(SSPD)
  3 社会科評価フレームワーク(SSAF)
 第3節 イリノイ州の教員養成系大学における歴史教育コース
  1 歴史教育コースの概要
  2 歴史教育コースの目標と内容
  3 教員適性評価テスト(ed-TPA)と歴史教育コース
 第4節 イリノイ州の歴史教育が目指すもの
 
第4章 歴史教育におけるディシプリン・ギャップ  イリノイ州の教育実習生の事例  
 
 第1節 イリノイ州B大学における歴史科教員養成コース
  1 調査対象者の選定と調査方法
  2 調査で得られたデータとその分析
 第2節 伝統的歴史教育の経験と新しい歴史教育の芽生え
  1 伝統的な教育方法への慣れ
  2 新しい歴史教育の浸透と学生の変化
 第3節 教育実習生を取り巻く環境
  1 学校現場の多忙な環境と教師の思い込み
  2 大学からの指導教官による支援体制
 第4節 実習生の葛藤とディシプリン・ギャップの背景
  1 心地よい保守的な歴史観への回帰
  2 調査から見えてきたディシプリン・ギャップの生起要因
 第5節 イリノイ州のディシプリン・ギャップから見えてきた歴史教育改革の課題
 
第5章 教育実習生支援とネットワークの構築
 
 第1節 教育実習生支援システムの概要
  1 調査の目的および方法
  2 大学指導教官によるサポート
  3 インターネットを使った実習生評価システム
  4 実習校の環境と協力教師や同僚との関係
  5 大学指導教官による支援
 第2節 協働的教育実習活動プロジェクト
  1 プロジェクトの目的と概要
  2 プロジェクトの効果
 第3節 教育実習生支援とネットワークの可能性と課題
  1 イリノイ州の教育実習生支援
  2 ニューヨーク市の教師教育はどうなっているのか
 
終 章 アメリカ歴史教育からの示唆
 
 第1節 暗記型か、思考型か、揺れる歴史教育
 第2節 歴史的思考力が目指す社会  多文化共生  
 第3節 本書の課題と日本における今後の展望
 
  あとがき
  引用文献
  索 引

著者紹介

川上具美(かわかみ ともみ)
 
西南学院大学人間科学部准教授。
九州大学大学院人間環境学府教育システム専攻単位取得退学。
博士(教育学、九州大学)。
専門は比較教育学、社会科教育学。
 
主要著作
『21世紀の教育改革と教育交流』望田研吾編、東信堂、2010年
主要論文
「中等学校におけるマイノリティの自発的社会参加への取り組み  ニューヨーク市公立学
  校における実践事例」『飛梅論集』第7巻、2007年
「米国歴史教育におけるディシプリン・ギャップ(Disciplinary Gap)に関する研究  教育
  実習生の抱く新しい歴史教育をめぐる葛藤とその背景」『カリキュラム研究』第21巻、
  2012年

学術図書刊行助成

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