内容紹介
2018年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がUNESCOの世界遺産に登録された。その登録運動もあり、江戸時代において、現在の長崎市外海(そとめ)地区から五島に移住があったことは広く知られている。実際には外海からは五島に限らず黒島や平戸島、北松浦半島の九十九島の半島、長崎港沖の島嶼にも移住が生じ、これらの地からさらなる移住が生じた結果、長崎県内に多くのカトリック信徒の集住地が形成されることとなった。こうした信徒の移住は長崎県外にも展開され、福岡県や宮崎県に長崎の信徒の「飛び地」が存在している。
本書は、江戸後期から明治期になぜ長崎の信徒の移住が頻繁に生じたのかを国内外の移動や移民研究の観点を用いて解き明かし、いわゆるキリシタン・ロマンの霧に隠れている、信仰と生業を基盤とする信徒の暮らしと移住の背景を明らかにするものである。信徒の移住の中には、明治期には外国人神父の宣教戦略が、大正・昭和期以後には国の開拓政策や地域政策が、それぞれ関与したものも含まれている。今日、歴史のひだに埋もれつつあるこうした事実を、残存する諸資料と現地での聞き取り調査等を通して明らかにしていく。
長崎の潜伏キリシタンとその子孫の「旅」の足跡を辿り、信徒が山間や海辺の移住地に集落を形成し、教会を設立してきた数世代に及ぶ生活を社会学の視点から解明する。