中国近代における「国語科」の創成 胡適の思想的模索

著者名
山下大喜
価格
定価 5,170円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0379-0
仕様
A5判 上製 196頁 C3037
発行年
2024年9月
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内容紹介

近代国民国家では、言語の共有化、「共通語」、「国家語」の形成によって国家に対する帰属意識とそれぞれが言語を通じてつながり合う共同体意識を育む必要がある。そこで重要な役割を果たすのが国語教育である。中国近代でも、教育予算の十分な確保や政策の全国的普及に多くの難題を抱える一方で、国際的な新教育運動を背景に近代的な学校教育制度の確立が模索されていた。なかでも、1922年の壬戌学制を受けて編成された「新学制課程標準綱要」は、文字通り「Curriculum Standards」として校種間の接続が意識され、国語教育では「国文科」から「国語科」へと改められた。これらの創成で中核的な役割を果たしたのが、文学革命の旗手として知られる胡適である。

本書は、「国語科」創成へと至る歴史的過程をふまえながら、胡適がどのような模索をしていたのかについて明らかにするものである。胡適は、これまで「文学改良芻議」に代表されるように、口語文学の確立を目ざす文学革命の旗手として論じられてきた。清末の学堂、そしてアメリカ留学を通じて、胡適は自らの知を育み、学友との議論を重ねながら、「文学改良芻議」に掲げられているような八か条を結実させていった。帰国後には北京大学へと着任し、「建設的文学革命論」では新たに「国語的文学・文学的国語」のスローガンを提示した。「白話」を「国語」に読みかえ、口語文学の創作を媒介とした「国語」の統一を唱え、これを契機に胡適は自らの国語教育論も展開させていく。低学年から「国語」を用いた教科書を整備し、学年があがるにつれて「国語文」から「古文」への学習に進むべきであると主張した。さらに、自らが取り組んでいた「整理国故」を援用して、「整理」されている「古文」を教材として採用すべきとした。これらの主張は、胡適が審議会の中核に名を連ねることで、実際の「国語科」へと反映されるに至った。思想史や文学史の背景を含め「国語科」創成を検討することで、文学革命の旗手にとどまることのない教育学的に評価すべき点を胡適の思想的模索に見出したことが、本書の特色と言えよう。

目次

序 章
 
 第一節 本書の問題意識
 第二節 先行研究の検討と論点整理
  (一) 胡適の思想的営為
  (二)「国語」と「国語科」
 第三節 本書の構成
 
第一章 近代的な「国語」意識の連鎖
 
 第一節 上田万年と伊澤修二
 第二節 「官話」と「国語」
 小結
 
第二章 アメリカ留学を通じた文学論の形成
 
 第一節 胡適のアメリカ留学
  (一) 留学史における胡適の位置づけ
  (二) 文学論議の発端
 第二節 文学革命の発火点
 第三節 ルネサンス史の援用   「中国的文芸復興」として  
 小結
 
第三章 「実験主義の信徒」として
 
 第一節 西洋知の受容と展開
 第二節 胡適とデューイの思想的関係
  (一) デューイとの接点
  (二) デューイ訪中と胡適による紹介
 第三節 マルクス主義との論争関係
  (一) 思想文芸と政治   「不談主義」の転換  
  (二)「問題と主義」論争
 小結
 
第四章 国語統一運動と文学革命
 
 第一節 読音統一会での議決  教育行政上の課題として  
 第二節 「建設的文学革命論」の思想史的意義
 第三節 胡適の国語教育論
  (一)「中学国文的教授」
  (二)「再論中学的国文教学」
 第四節 「国語科」創成の政策過程
 小結
 
第五章 「清末」との差異化
 
 第一節 清水董三による国語統一調査
 第二節 文学史叙述の変容
  (一) 胡適と梁啓超
  (二) 文学革命の成果
 第三節 「形式」と「内容」
 小結
 
終 章
 
 胡適と国語教育改革
「国語」の思想史
 今後の課題
 
 参考文献
 あとがき
 初出一覧
 参考資料
 略年譜
 人名索引

著者紹介

山下大喜(やました だいき)
 
山口大学教育学部講師。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程修了、博士(教育学)。日本学術
振興会特別研究員(DC2)、愛知教育大学・中京大学非常勤講師、宇部工業高等専門
学校一般科講師などを経て現職。
専門領域は教育学(カリキュラム研究、教育史)で、主に中国近代および台湾をフィー
ルドとしたカリキュラム論の特質、教育思想の受容史について研究を進めている。ア
ジア教育史学会2022年奨励賞受賞。
 
主要業績:
「台湾から解釈型歴史学習の可能性を考える」土屋武志、白井克尚編著『グローバル
  社会における解釈型歴史学習の可能性』帝国書院、2024年
  "Chinese educational development through the lens of John Dewey,"
  History of Education Researcher, No. 111, 2023.
「中国近代における「国語科」カリキュラム論の形成  胡適の模索を中心に  
  日本カリキュラム学会『カリキュラム研究』第32号、2023年
「愛知県新城市立新城小学校における校内授業研究の基盤構築  渥美利夫による校長
  室通信『考える』の分析をもとに  」愛知教育大学歴史学会『歴史研究』第68号、
  2022年(白井克尚、生嶌亜樹子、久野弘幸との共著)
「胡適と国語教育改革  中国近代における「国語科」の創成  」、日本教育学会
  『教育学研究』第87巻第4号、2020年

学術図書刊行助成

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