水の女トポスへの船路

シリーズ名
九州大学人文学叢書2
著者名
小黒康正
価格
定価 3,800 円 (税別)
ISBN
978-4-7985-0076-8
仕様
A5判 上製 288頁 C3398
発行年
2012年3月
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内容紹介

 ヨーロッパ文学における「水の女」の系譜は,大小さまざまな流れから成り立つ。但し,その本流は,古代ギリシア神話を水源とし,キリスト教のもとで形を変えながら,中世やルネサンス期の民間伝承や民衆本を経て,近代ドイツのメールヒェンにて川幅を広げ,更にデンマークへと至り,世界文学という海原に流れ出る。
 こうした流れの中でドイツ文学の役割は大きい。セイレンの後裔たちは,明るい海原ではなく,奥深い森の湖沼に現れるようになると,文学において頻出する「他者」となり,同時に内面化された「他者」となる。つまり,「水の女」の系譜は,ドイツ文学において,「外なる異界」や「未知なる他者」のみならず,「内なる異界」や「未知なる自己」をも取り込みながら,「水の深さ」が「心の深さ」となる現代的な「他者」経験を問題にしていく。
 ヨーロッパ文学に頻出する「水の女」は,人間の魂を求める「物質存在」であり,「陸の男」を水底へと誘う「女性存在」であり,新しいポエジー言語を導く「言語存在」である。その意味で,件の「他者」は,人間と物質が,男性と女性が,言語と言語ならざるものが出会う場所において繰り返される常套句であり,濃密な文学空間を培うトポスと言えよう。
 本書は,「水の女」の誘惑手段に身体論的に着眼しながら,同系譜を神話的始原から黙示録的終末まで追う「オデュッセイア」である。我々は「長い船路」にて水底へと誘われてしまうかもしれない。トポスとしての「水の女の物語」は,新しい男女のあり方,新しい言葉,「どこにもない場所」,つまり「ウ・トポス」の模索を既存の世界にいる我々に促す。文学は「ユートピア」である。航海には常に危険が伴う。

目次

序章 船出
 
第一章 歌声の消失
  一 聴覚と知性    ホメロス
  二 視覚の簒奪    キリスト教
  三 水の女の詩学    研究史
  四 歌う母と歌わぬ娘    民衆本
  五 水の精    パラケルスス
 
第二章 歌声の復活
  一 メールヒェン    ヴィーラント
  二 耳の復讐    ゲーテ
  三 恋の茶番    ブレンターノ
 
第三章 一八一一年
  一 「和平」の物語    フケー
  二 「戦い」の火蓋    クライスト
 
第四章 妙音の饗宴
  一 ローレライ「伝説」    ハイネ
  二 深い憂い    アイヒェンドルフ
  三 三重の頓挫    アンデルセン
 
第五章 宴の後
  一 水底から浮かぶ否定性    ホーフマンスタール
  二 沈黙する「エス」    リルケ
  三 仮象の過程    カフカ
  四 芸術の無駄遣い    ブレヒト
  五 悪魔的領域    トーマス・マン
 
終章 「水の女」の黙示録    バッハマン
 
補遺 人魚の嘆き    近現代日本文学
 
 参考文献一覧
 初出一覧
 あとがき
 主要人名索引

著者紹介

小黒康正(おぐろ やすまさ)
1964年生まれ。北海道小樽市出身。博士(文学)。ドイツ・ミュンヘン大学日本センター講師。現在,九州大学大学院人文科学研究院教授(ドイツ文学)。著書に『黙示録を夢みるとき トーマス・マンとアレゴリー』(2001年,鳥影社,単著),『トーマス・マン『魔の山』の「内」と「外」  新たな解釈の試み  』(2006年,日本独文学会研究叢書041号,編著)等。

その他

九州大学人文学叢書
王昭君から文成公主へ 水の女 小林方言とトルコ語のプロソディー 背表紙キャサリン・アーンショー 朝鮮中近世の公文書と国家 始めから考える 日本の出版物流通システム 御津の浜松一言抄 南宋の文人と出版文化 戦争と平和、そして革命の時代のインタナショナル

学術図書刊行助成

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