内容紹介
欧米以外で初めて発見された元素である、113番元素の名前がニホニウムに決定したことは記憶に新しい。元素名の由来は単なるトピックスに留まるものではない。すなわち、元素名も「名は体を表す」のであって、元素の特性や発見の歴史、元素発見者の思いを反映しているのである。森鴎外がその自伝的小説『ヰタ・セクスアリス』で主人公の金井湛に語らせたように、語源を知ることで記憶に留めやすくなるという実用上の利点も挙げられよう。
本書では、全118元素の名前の由来について、その語源を考察する。直接的に語源となった言葉(主にギリシャ語やラテン語の単語)はもとより、ギリシャ・ローマ神話の登場人物、地名や人名をその語源に遡って解説する。語源の到達点はしばしば、インド・ヨーロッパ祖語や古代オリエントの諸言語にまで至る。『古事記』『日本書紀』や『日葡辞書』に見られる、日本での元素の記述にも言及する。命名に関連する発見の逸話を紹介して、命名者が名づけに込めた思いに迫り、「ことば」の面から元素を考える。
英語・ドイツ語・フランス語に加え、多くの元素発見者を輩出したスウェーデン語、元素名の語源と関連が深いギリシャ語、近年の元素発見に寄与するロシア語の元素名と読みのカタカナ表記を記載し、各国語における綴りや読みの同異の妙味も紹介する。