内容紹介
イタリア・ヴェネチアの南150kmにラヴェンナという町がある。一時期、西ローマ帝国の首都の役割を果たしたこのラヴェンナには、多くの教会堂が建設された。その教会堂の大部分には、モザイク・ガラスによる宗教的壁画が描かれ、現在でも完全に近い形で残されている。そのモザイク・ガラスによる調和のとれた美しさに、誰もが圧倒される。
本書は、まず、それら教会堂の空間的特徴を明らかにして、ついでその中に描かれたモザイクの特徴、さらにモザイクを製作した職人集団などを、ローマ帝国のマクロ的、ミクロ的史実によりながら、リアルに推定している。
しかしながら本書は、一般の歴史書ではない。職人ガルスという人物を想定して、女帝プラキディアと出会うガルスを中心とする職人集団が、コンスタンチノープルのモザイク・ガラスの製作過程に学び、ついでラヴェンナの教会堂に適用していく経緯を、あるときは史実に基づき、あるときは推理に基づき、明らかにしている。史実の中にガルスという仮想の人物を導入することによって、モザイク・ガラスの成立過程をより鮮明にすることに成功している。その点で本書が、類似の書籍とは異なる特筆に値する読み物となっているところでもある。
以上要するに、ラヴェンナのモザイク・ガラスの秘密を平易に解説したものであり、建築系の学生諸氏,教職員のみならず一般の市民の方々にも幅広く読まれることが期待される。