内容紹介
戦後のドイツ人は自身の〈ホーム〉を失ったディアスポラの民であり、人々は精神的故郷を求めてさまよい、さすらった。果たして現代のドイツ映画は〈ドイツ人のディアスポラ〉という戦後のビッグ・モチーフに対していかに応答したのだろうか?
21世紀以降のドイツ映画賞受賞作のうち、「移民」「ナチ」「東西ドイツ」を扱った諸作品を異文化理解の立場から紹介・解説する本書は、現代ドイツ映画史への格好の手引書であるといえよう。あらすじ、主題、メディア論的な意味を分析考察し、2000年代から2010年代にかけて生じた作品傾向の歴史的変容を基礎概念の提示と共に明らかにする。
本書において提示されるのは、「帰還」と「消失」、「和解」と「決別」、「再生」と「贖罪」という3組の対概念であり、それぞれ「移民」「ナチ」「東西ドイツ」を題材とした諸作品の理解に対応する。21世紀以降の受賞作において、2000年代の〈ホーム〉に「帰る/気づく」物語から、2010年代の〈ホーム〉を「失う/築く」物語への変容が確認され、本書の提示する3組の対概念はこのような変容を理解する上での有効な基礎概念となるであろう。