内容紹介
本書は首都とは何か、清代北京の三つの空間構造より論を起こし、北京首都社会論を提起する。本論では第一に首都北京における水害救済と食糧流通、第二に火災と消防組織、第三に治安統治と戒厳体制の三領域を考察し、北京首都社会における特質を解明する。三領域を考察する際に、首都北京を統治する清朝政府の諸政策も論じられる。本書は問題を可能な限り具体的に考察し、事象の実態を捉え、それがどのように変化するのかという研究方法を重視している。本書では、北京と台北に架蔵されている非編纂の行政文書である檔案史料を分析し、事象への具体的考察を試みる。考察の年代は18世紀の乾隆年間から1900年の義和団事件までである。
第一部では、水害救済と食糧問題を考察する。水害の個別事例研究をより、社会的諸階層の動向を観察する。また、北京城内で流通していた食糧が南方から輸送され商品化された漕糧であることを明らかにする。第二部では、官設・民間と紫禁城における火災と消防組織について論じる。清代北京の火災消火活動の事例を年表に基づいて、どのような組織がどのようにして火災を消火していたのかを考察する。義和団事件以後に設立された北京の消防隊には、日本人が関与していたことにも論及する。第三部では、治安統治と戒厳体制の問題を考察する。首都の行政区画と範囲を明らかにし、治安末端組織と治安監視施設の実態を詳らかにする。19世紀以降に首都北京が国内敵対勢力と外国の脅威に直面し、戒厳体制が構築された際、清朝はどのように首都の住民を掌握し組織化を行い、危機に対応したのか、すなわち国家による社会統合、及び民間社会が日常的な連係体制を形成してゆく諸相を明らかにする。