内村鑑三 再臨の風景 (きた)りつつあるイエスと生命(いのち)の水の河

著者名
小林孝吉
価格
定価 5,940円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0387-5
仕様
A5判 上製 334頁 C3016
発行年
2025年3月
その他
第16回 九州大学出版会・学術図書刊行助成 対象作
ご注文
  • 紀伊國屋
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • セブンネットショッピング

内容紹介

本書は、日本近代の無教会信仰者、伝道者である内村鑑三のキリスト教思想、その福音の中心にして、旧新約聖書の奥義となる「再臨信仰」に関する研究である。それはまた、戦争と混沌の時代のなかで、旧約の風前の籾殻(もみがら)の如くに生きる、人の救済への途をたどる文学・批評的な再臨論でもある。

プロローグには、旧約学者・関根清三『旧約における超越と象徴』との対話を置き、大江健三郎『燃えあがる緑の木』とともに、人生の懐疑と旧約の森、そこに垣間見える再臨宇宙を論じた。以下、ドストエフスキー文学におけるスタヴローギンからイヴァンまでのニヒリストの系譜(第一部)、罪と愛をめぐるユダとイエスの新約の物語(第二部)を考察した。第三部では、神学者・滝沢克己の晩年のブルームハルト父子論と関連した神の国と地上の国の問題、その核心となるインマヌエルと再臨、次に非戦論・絶対戦争廃止論ととともにある内村鑑三の再臨信仰への途(第四部)、世界大戦争と呼ばれた第一次世界大戦を背景に高揚した大正期の再臨運動等を論じ、最後の第五部では、結論となる再臨のキリストと(きた)りつつあるイエスの終末論的考察、内村鑑三と最後の弟子・藤井武との贖罪信仰と愛の福音をめぐる関係など、内村鑑三と再臨信仰の核心へと至る。

このように、内村鑑三のキリスト教の信仰的生涯とその傑出した思索を再臨信仰から読み解き、エピローグでは本書のテーマである生命(いのち)の水の河の(ほとり)へと至りつく。それは内村鑑三という一キリスト者の思想と道半ばであったその万人救済論を、「臨りつつあるイエス」を象徴的、黙示的な光源にして、旧新約聖書の希望の水脈として流れつづける「生命の水の河」を遡源し、「再臨」という純福音に達する内村鑑三研究である。人は、いかに救われるか、というパウロのロマ書の問いとともに――。

その永遠に涸れることのない一条(ひとすじ)の生命の河は、創世記の原初の楽園を潤したその(みなもと)から、旧約の幾重もの歴史の地層をくぐり、イエスとともにはじまる新約の福音書、パウロなどの信仰書簡からヨハネ黙示録の新しい天地、都の大路の中央まで途絶えることなく流れている。そこには、臨りつつあるイエスとともに、罪と死を超えた万人救済・再臨の風景が広がり、生命(いのち)の水音が響く希望の物語がある。

目次

序 詞 人は皆風の吹き去る籾殻(もみがら)の如くに
 
プロローグ 旧約の森と再臨宇宙  『旧約における超越と象徴』との対話
 
 1 魂のこと  再臨信仰の森へ
 2 旧約の森のなかで  響き合う声
 3 旧約学と解釈学的経験の系譜  『旧約における超越と象徴』
 4 贖罪と再臨  永遠の現在と再臨宇宙
 5 「此の書成りて今や汝は死すとも可なり」  増補新装版との対話
 6 Rejoice !   喜びを抱け(リジョイス)
 
第一部 悪魔の跳梁と黄金時代の夢  ニヒリストの系譜
 
 1 スタヴローギン  黄金時代の夢
 2 神と悪魔  楽園喪失(パラダイス・ロスト)から
 3 精神の地下室  地下生活者と娼婦リーザ
 4 スヴィドリガイロフ  『罪と罰』
 5 キリーロフ  『悪霊』
 6 スメルジャコフとイヴァン  『カラマーゾフの兄弟』
 
第二部 イスカリオテのユダ  罪と愛の物語
 
 1 罪と悪魔の形象  神の影としての自由
 2 イスカリオテのユダ  福音書のなかのユダ
 3 カール・バルトのユダ像  棄てられた/選ばれた使徒
 4 さまざまなユダ証言  歴史のなかのユダ
 5 日本文学のなかのユダ  遠藤、太宰、芥川
 6 内村鑑三のユダ講解  罪と救い
 
第三部 神の国と地上の国  インマヌエルと再臨
 
 1 地上の国と最善説  ヴォルテール『カンディード』
 2 あなたはどこにいるのか  神の呼び声と応答 
 3 神の国と地上の国  ブルームハルト父子と再臨 
 4 滝沢克己の『神の国の証人ブルームハルト父子』論  キリスト再来、終末の日、イエスの時
 5 天然詩と地上の国  内村鑑三の信仰詩の宇宙(コスモス)
 6 内村鑑三の非戦論と再臨信仰  塵戰(ぢんせん)又た塵戰(ぢんせん)、……
 
第四部 内村鑑三における再臨信仰への途  信仰の階段と同時代
 
 1 キリスト教受容と信仰の三大時機(モメント)  第一時機
 2 十字架と贖罪の回心  第二時機
 3 再臨信仰への途  伝道の三〇年と第三時機
 4 再臨信仰と再臨運動  大正社会と再臨待望
 5 再臨信仰の理解  同時代のなかで
 6 藤井武と再臨信仰  来世への希望
 
第五部 内村鑑三と再臨信仰  臨りつつあるイエスと生命の水の河
 
 1 孤独と再来  『聖書之研究』の創刊と来世観
 2 来世と復活  ルツの死から再臨信仰へ
 3 再臨運動高揚期の再臨論  一九一八年前半
 4 キリスト再臨の待望  一九一八年後半
 5 再臨運動衰退期へ  一九一九年以後
 6 贖罪信仰と愛の福音  内村鑑三と藤井武
 
エピローグ 生命の水の河の(ほとり)  再臨の風景
 


 1 『内村鑑三全集』における再臨・再臨信仰著述一覧
 2 内村鑑三によるキリスト再臨に関する主な新約聖書の章節
 3 引用・参考文献・再臨関連文献
初出・典拠等について
あとがきに代えて
 再臨のキリストと臨りつつあるイエス  戦争の新世紀のなかで
索 引

著者紹介

小林孝𠮷(こばやし たかよし)
 
1953年、長野県生まれ。文芸評論家。明治学院大学キリスト教研究所協力研究員。「千年紀文学」編集人。
明治学院大学文学部卒業。博士(学術、九州大学)。日本社会文学会、日本キリスト教文学会会員。NPO
法人滝沢克己協会理事長、NPO法人今井館教友会監事。
 
著 書
『椎名麟三論 回心の瞬間』(菁柿堂、1992年)
『存在と自由  文学半世紀の経験』(皓星社、1997年)
『滝沢克己 存在の宇宙』(創言社、2000年)
『記憶と文学  「グラウンド・ゼロ」から未来へ』(御茶の水書房、2003年)
『記憶と和解  未来のために』(御茶の水書房、2009年)
『島田雅彦  〈恋物語〉の誕生』(勉誠出版、2010年)
『銀河の光 修羅の闇  西川徹郎の俳句宇宙』(茜屋書店、2010年)
『埴谷雄高『死靈』論  夢と虹』(御茶の水書房、2012年)
『椎名麟三の文学と希望  キリスト教文学の誕生』(菁柿堂、2014年)
『内村鑑三  私は一基督者である』(御茶の水書房、2016年、第3回西川徹郎文學館賞)
『原発と原爆の文学  ポスト・フクシマの希望』(菁柿堂、2016年)
『内村鑑三の聖書講解  神の言のコスモスと再臨信仰』(教文館、2020年)他。
編著書
 滝沢克己『西田哲学の根本問題』(編・解説、こぶし書房、2004年)
『内村鑑三の信仰詩・訳詩・短歌等集成  附、解題、解説、文学観、略年譜』
 (編・解題・解説、明治学院大学キリスト教研究所、2022年)
 内村鑑三『後世への最大遺物』(現代語訳・解説、今井館教友会、2023年)

その他

 訂正(2025年3月31日初版発行分)
 
 30頁後ろから5行目
 誤:一八歳の愛する娘ルツを喪い
 正:一七歳の愛する娘ルツを喪い
 
 149頁4〜5行目
 誤:一八歳の愛娘ルツの死
 正:一七歳の愛娘ルツの死
 
 175頁11行目
 誤:一九一二年一月一二日一八歳で病名不明のまま
 正:一九一二年一月一二日一七歳で病名不明のまま
 
 215頁7行目
 誤:一八歳のルツの死によって
 正:一七歳のルツの死によって
 
 247頁2行目
 誤:一八歳の若さで死んだ愛娘ルツ
 正:一七歳の若さで死んだ愛娘ルツ
学術図書刊行助成

お勧めBOOKS

若者言葉の研究

若者言葉の研究

生きている言語は常に変化し続けています。現代日本語も「生きている言語」であり、「…

詳細へ

犯罪の証明なき有罪判決

犯罪の証明なき有罪判決

冤罪はなぜ起こるのか。刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪…

詳細へ

賦霊の自然哲学

賦霊の自然哲学

物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこ…

詳細へ

帝国陸海軍の戦後史

帝国陸海軍の戦後史

近代日本のなかで主要な政治勢力の一翼を担った帝国陸海軍は、太平洋戦争の敗戦ととも…

詳細へ

構造振動学の基礎

構造振動学の基礎

本書の目的は,建物・橋梁・車両・船舶・航空機・ロケットなど軽量構造物の振動現象を…

詳細へ

九州大学出版会

〒819-0385
福岡県福岡市西区元岡744
九州大学パブリック4号館302号室
電話:092-836-8256
FAX:092-836-8236
E-mail : info@kup.or.jp

このページの上部へ