内容紹介
世俗化した近現代における「宗教」、「信仰」、「宗教建築」、そして「信徒」とは何か。この大きな問いに、本書は香港というひとつの事例の全容を提示しつつ、世界史的に位置づける。
意外にも香港には、カトリック信者が多い。香港の信者数は、日本全体の信者総数よりも多い。この背景には、カトリック教会が社会的に担ってきた役割の大きさがある。イギリスは19世紀に香港を植民地とした後、カトリック教会に教育・福祉サービスを担わせた。この見返りというかたちで、多くのカトリック教会堂が政府助成を受けて建設されるようになった。
カトリック教会堂の形態や用途は約180年の香港史において、目まぐるしく変遷した。その背景には、植民地ならではの政府と教会の相互依存的関係があり、また、香港返還が決定した後の関係激変があった。そして教会堂空間を確保するため、教会はあらゆる努力をしてきたが、それには司祭のみならず、信徒たちが重要な役割を担ってきた。
戦後に急増した香港人信徒たちは、難民としての受動的な存在から徐々に自立、成熟し、教会堂建設に参加するようになった。特に建築家やエンジニアである信徒の活躍が顕著であった。彼らの奉仕は司祭の実務的な補助者として始まったが、世界的な霊性運動の興隆に大きな影響を受け、また返還をめぐる香港社会の激動のただなかにあって、次第に、信徒自身の霊性探求を教会堂営繕に見出し、求めてゆくようになった。
本書は、教会堂という物質的なものの変遷と同時に、信者の信仰、霊性という内的な変容の過程をも描く。