公衆衛生学理解 社会医学の視座から
内容紹介
2020年に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、感染者の健康と生命だけでなく、人々の暮らしにも多大な影響を与えてきた。本書では、人々が生活し共生する社会を包括的かつ総合的に捉え、社会の枠組みの一環としての公衆衛生の意義を説く。
まず、人が社会に共生していくための社会規範を示し、とくに人権と倫理について詳しく論じ(第1章)、衛生行政施策について詳しく解説する(第2章)。つぎに生涯にわたる保健について学んでいく(第3章)。人の誕生からはじまる母子保健、教育を受ける期間である学校保健、就労してからの産業保健、定年後の高齢者保健、さらに生涯にわたる精神保健を知る。また、日本国憲法が謳う「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(第25条)を保障するための社会保障、すなわち人間が人間らしく生きる権利について理解を深める(第4章)。人々が健康な生活を享受するために必要な環境保全として、生活環境、職場環境、都市環境、さらに地球環境の諸問題について詳細に学ぶ(第5章)。そして国際的な動きを知るために国連のSDGsで「誰一人取り残さない」という理念のもと、諸国が協力して遂行しようとする17目標の実践状況について学んでいく(第6章)。さらに国連を中心とした国際保健活動の動向を知る(第7章)。最後にさまざまな書に表れる統計を判読するための知識を得る(第8章)。
人々がコミュニティーを形成して協働生活をしていくなかで、精神生活、身体生活が充実したWell-beingを実現し享受して生きていくために必要本書では、社会医学の視座から健康生活に絡むさまざまな様相を考察し、学際的に理解を深める。
目次
プロローグ
第1章 社会の誕生と文化
1.コミュニティーの誕生
2.日本の社会文化の特性と変遷
3.共生のための社会規範
(1)人権(人権とは、人権獲得の歴史、プライバシー権、性差にみる人権(ジェンダー、セクシュ
アル・ハラスメント、性と生殖に関する健康・権利)、医療現場における人権(患者の人権、自己決
定権、医療者の人権)) (2)倫理(倫理とは、医療倫理の歩み、医療倫理の今日的対応(医療技術
の急速な進歩、生命の延命かQOLか、安楽死、IC、医療事故、コミュニケーション法の選択))
第2章 保健に関する社会システム
1.公衆衛生の歴史
(1)古代ローマ (2)中世 (3)近世 (4)日本
2.公衆衛生学の成立
3.人口動態
4.コミュニティーにおける保健体制
(1)健康維持への社会の関わり (2)保健衛生行政の歩み (3)社会保障の一環としての医療経済
5.疾病構造の推移
(1)疾病構造の推移 (2)疾病統計法(罹患率・有病率・死亡率、国際疾病分類)
6.疾病予防の方策
(1)健康と環境の相互作用 (2)地域社会と保健システム(コミュニティーとアメニティー、地域
保健活動、健康都市)(3)疾病予防の社会システム (4)市民の健康保持増進策(健康教育、ラ
イフスタイル、老化と社会、障害者)
7.感染症の予防対策
(1)人類を苦しめた主な感染症(ハンセン病、ペスト、梅毒、結核、コレラ、天然痘、インフルエ
ンザ、新型コロナウイルス感染症)(2)届出を要する伝染病 (3)定期予防接種 (4)院内感染
対策 (5)海外旅行での感染症 (6)主な薬害事例
第3章 生涯にわたる保健
1.母子保健
(1)発育と発達 (2)母子保健の施策 (3)母子保健の課題(少子化、子育て・健康支援、児童虐
待)(4)子どもの貧困(子どもの貧困の現状と原因、子どもの貧困の解消)
2.学校保健
(1)子どものライフスタイル (2)身体の発育 (3)メンタルヘルス(不登校、摂食障害、発達障
害)(4)いじめ (5)身障者教育 (6)学校保健施策 (定期健康診断、歯科保健、健康教育、学
校給食)(7)地域社会と学校保健活動 (8)子どもたちの幸福度
3.産業保健
(1)産業保健の歴史 (2)労働と雇用(生産年齢人口、雇用関係の成立と形態、労働法)(3)労
働者の健康(職業病、労働条件の変化、作業環境の変貌、労働災害・事故、健康診断)(4)健康
障害に関する今日の課題(過重労働、メンタルヘルス、熱中症、電離放射線、アスベスト)(5)
職場復帰(うつ病、がん患者、失業後の再就労、仕事のあり方、仕事の辞め方)
4.高齢者保健
(1)老いるということ(老いの表象、精神的変化、高齢者の疾病、高齢者の疾病予防ワクチン)
(2)老年人口の増加 (3)老年期の社会的ケア(老化と社会、介護)(4)老後を生きる
5.精神保健
(1)ライフステージの各段階における精神保健 (2)ストレスと心の病(うつ病、心的外傷後スト
レス障害)(3)発達障害(AD/HD(注意欠如/多動性障害)、広汎性発達障害、高機能広汎性発
達障害)(4)適応障害 (5)老年期の精神障害(喪失体験、ボケと認知症)(6)精神障害への
対応(精神保健対策の歩み、精神障害の分類、精神障害の初期治療、精神障害の入院治療、入院
治療中心から地域生活中心(院外治療)へ)
第4章 Well-being のための社会保障
1.社会保障の理念
2.社会保障制度の歩み
(1)歴史的背景(海外の国々、日本)(2)社会の現状(世相の変化、経済的格差社会の出現)
3.社会保障の施策
(1)施策とその構成 (2)配分の不均衡 (3)国民総医療費の負担構造
4.財源の確保
(1)財政の現状 (2)財源の確保策(所得税と法人税、雇用体制の変革、消費税改革、変革によっ
てもたらされるもの)
5.社会保障の現在と近未来
(1)現状の分析(世界の動き、国内の動き)(2)貧困からの脱出 (3)生きがいのある社会
第5章 環境と健康
1.環境と健康
(1)人間の生存に必要な外部環境(生態系は連鎖する、環境汚染物質は移動する、環境汚染のサイ
クル)(2)環境倫理
2.生活環境
(1)日常生活の環境(室内空気汚染、食べ物、水の衛生、電磁波)(2)消費者保護 (3)生活廃
棄物 (4)外部環境、放射線被曝(騒音、振動、悪臭、害虫駆除剤、粉じん、その他の金属・化学
物質、規制する施策)
3.都市の環境
(1)都市アメニティー (2)快適な自然環境 (3)日本の四大公害病(イタイイタイ病、水俣病、
四日市喘息、新潟水俣病)
4.地球環境
(1)環境汚染の事例 (2)大気汚染(二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、硫
黄酸化物(SOx)、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント、揮発性有機化合物、酸性雨、オゾン層)
(3)放射性物質による被曝(内部被曝、外部被曝)(4)海洋汚染 (5)熱帯雨林の減少と砂漠化
(6)地球温暖化(自然現象、人為的現象、地球温暖化防止への国際的動向)
5.自然災害
(1)国内の大災害 (2)活躍する医療チーム (3)災害急性期の対処 (4)災害慢性期の対処
第6章 国連「持続可能な開発目標(SDGs)」
1.人間安全保障への施策の歩み
2.持続可能な開発目標(SDGs)
(1)SDGsの概念 (2)SDGsで達成すべき17目標 (3)「誰一人取り残さない」という理念の検証
3.どのように対応するか
(1)気候変動への対応 (2)貧困の解消 (3)平等性多様性のある社会 (4)各界の連携
第7章 国際保健
1.国際保健活動の動向
2.世界保健機関(WHO)
3.国際保健活動への協力
(1)ユニセフ(unicef)(2)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)(3)国境なき医師団(MSF)
(4)世界食糧計画(WFP)(5)食糧農業機関(FAO)
第8章 統計データの意味を理解する
1.疫学の定義と歴史
2.疫学の方法
(1)コホート研究 (2)症例対照研究 (3)介入研究(実験疫学)
3.統計の諸指標
(1)四分割表 (2)オッズ比と相対リスク (3)治療必要数(NNT)(4)中央値と平均値
(5)標準偏差(SD)(6)標準誤差(SE)(7)変動係数(CV)(8)信頼区間(CI)
(9)有意差検定 (10)統計を解釈するうえでの注意点
エピローグ
引用・参考文献
索引
著者紹介
的場恒孝(まとば つねたか)
1968年、久留米大学大学院医学研究科博士課程(内科学)修了、医学博士。
1979年、久留米大学医学部助教授(内科学)、1983年同教授(環境衛生学)、2001年、同名誉教授。
(社医)新古賀病院顧問を経て2020年からフリー。
専攻:産業医学、環境医学、循環器内科学、医療科学。
主な著書:『振動病の基礎と臨床』(南江堂)、『産業医ノートブック』(医歯薬出版)、
『心臓病の診療マニュアル』(医歯薬出版)、『医療科学入門―その科学・アート・文化』(南江堂)、
『医療文化への誘い―よき医療者のために』(金芳堂)など。