四川大地震から学ぶ 復興のなかのコミュニティと「中国式レジリエンス」の構築
内容紹介
国の威信をかけた北京オリンピック開催の直前、中国の様々な社会問題などが世界中の注目を集めていた2008年5月12日に四川大地震は発生した。地震をきっかけに中国社会でもボランティア元年、NGO元年と呼ばれる市民の動きが沸き上がり、中国政府は微妙な駆け引きを行いながら復興のかじを取ることを余儀なくされた。
本書は、四川大地震発生から13年経過した今、復興政策、被災者のこころのケア、被災地観光、少数民族、防災教育といった多様な視点から変容する中国社会を中長期的視点で見つめ、中国式レジリエンスの構築について考察しながら、そこからわが国が汲むべき教訓を考えるものである。
若手中国人研究者らが、その言語能力と現地でのネットワーク・フットワークを活かして行った調査の成果を、研究会を重ねて検討し、日本語を用いて執筆した。災害・防災は日本と中国の間で国際協力が期待されている重要な分野であり、また災害が頻発するアジア太平洋地域においても重要な課題である。
読み物として、四川や日本の大学・研究所で活躍する中国人研究者、国際協力機構(JICA)の四川支援に従事した日本人などによるコラムも掲載。
目次
序論
第1章 五・一二 四川大地震における中国社会の復興対策の特徴と課題
はじめに
1 中国の「防震減災法」
2 「汶川地震被災後再建復興条例」と「国家汶川地震被災後復興再建総合計画」
3 「対口(たいこう)支援(一対一支援)」政策
4 二〇〇八年は「中国NGO元年」
5 生活再建における諸課題
おわりに
コラム1 再び大地震が中国を襲った
五・一二 四川大地震被害地の調査/唐山地震と五・一二 四川大地震の比較/五・一二
四川大地震から学ぶこと
コラム2 五・一二 四川大地震の二次災害──土砂災害・堰き止めダム──
コラム3 五・一二 四川大地震後のボランティア活動
大地震発生後、急遽四川に戻る/都江堰市でのボランティア活動/彭州市でのボラン
ティア活動/被災地での心理ケアと健康教育活動/震災後の日本訪問/災害時の公衆
衛生学者としての使命
第2章 四川汶川大地震・四川雅安・芦山地震の震災復興における中国災害NGOの役割
──こころのケアを行う草の根NGOの活動を事例として──
はじめに
1 中国のNGO
2 救災活動に関する先行研究
3 二〇〇八年五・一二 四川大地震
4 五・一二 四川大地震における草の根NGO「お母さんの家」とその活動から派生した
NGO「一天公益」の活動
5 二〇一三年四・二〇雅安地震
おわりに
コラム4 五・一二 四川大地震──巡ってきた初夏に思う──
国際緊急援助隊派遣 日本隊が残したもの/日本の知恵を活かした復興支援 こころ
の復興への取り組み/
コラム5 一〇八人の赤ちゃん阿羅漢
震災後お寺に赤ちゃんが誕生/なぜ羅漢寺の支援が特別なのか/無謀なボランティア
として
第3章 四川被災地高齢者福祉施設入居者のこころのケア
はじめに
1 研究背景
四川省の高齢化/被災高齢者が置かれた状況/本研究の研究目的
2 先行研究
災害における高齢者の脆弱性/自然災害が高齢者に及ぼす影響/被災高齢者への
サポート/先行研究のまとめと本研究の研究目的
3 現地調査
調査方法及び倫理的配慮/調査対象者の選別と属性/調査データの分析手順/調査
地の概況と選択理由
4 調査結果
第一段階観察/第二段階インタビュー
5 考察
被災高齢者へのこころのケアの現状/能動的なサポートの必要/個々人の人生経験
に応じたケアの提供
6 結論
7 本研究の限界
おわりに──日本に対する示唆
第4章 ダークツーリズムにおける防災教育に関する考察
──中国北川国家地震遺跡博物館を対象に──
はじめに
1 ダークツーリズムとは
2 自然災害におけるダークツーリズム
3 自然災害におけるダークツーリズムと防災教育の関係
4 本研究の視座と目的
5 現地調査
北川羌(チャン)族自治県と北川国家地震遺跡博物館/調査方法
6 調査結果
北川国家地震遺跡博物館の実態/インタビュー内容分析/結果
7 考察
北川県におけるダークツーリズムの現状への考察/北川国家地震遺跡博物館の展示
への考察/地震未経験者への考察/地震経験者への考察
おわりに
結論/限界と課題
第5章 五・一二四川大地震後羌(チャン)族無形文化遺産の保護と復興
──茂県の羌暦年を例として──
はじめに
1 災害と無形文化財保護
無形文化財とは/災害と無形文化遺産/中国における震災後羌族無形文化遺産に
関する研究
2 地域の概要と羌暦年
茂県の概要/茂県の被害と復興/羌暦年/羌暦年の被災/羌暦年などの無形文化
遺産に対する保護策
3 現地調査
調査方法、内容と目的/調査対象
4 調査結果と考察
二〇二〇年度羌暦年の実態から見る羌暦年の変化/復興が羌暦年などの羌族文化に
与える影響/伝承人の高齢化が進行し、後継者が不足している現状/無形文化遺産
保護における民衆の主体性の欠如/羌族女性参加者の増加/文化の復興と地域レジ
リエンスの構築/デジタル時代における無形民族文化財に対する保護方式の変化/
東日本大震災後の無形文化財保護との比較
おわりに
コラム6 震災復興による商業開発が地域住民に与えた影響
──四川省汶川県蘿蔔寨(ローボザイ)を例に──
収入の変化/生活空間の変化/家族形態の変化
コラム7 思いがけぬ年に思いがけぬ年を振り返って
コラム8 震災後の四川大学における災害研究やキャンパス安全の変化
五・一二四川大地震後四川大学におけるキャンパス防災の実施状況/災害研究との
ゆかり
第6章 五・一二四川大地震後の社会的防災の歩み
──学校における防災教育とコミュニティ防災の実践から──
はじめに
1 学校における防災教育
五・一二四川大地震で課題として浮上した防災教育の欠如/防災教育の理念の模索/
学校現場における調査──被災歴と教育水準が異なる四つの学校/学校内部における
防災教育の変化/防災教育へのNGOの参加──有名な災害NGO「壹基金」から
見る
2 コミュニティ防災
防災コミュニティの出現と増加/都市化の中のコミュニティ防災/今のコミュニティ
防災から次の段階へ
おわりに
あとがき
著者紹介
<編者>
大谷順子(おおたに じゅんこ) 序論、第1章、第2章、あとがき
大阪大学大学院人間科学研究科・教授。同研究科国際交流室長。
ハーバード公衆衛生大学院MPH(国際保健学)、MS(人口学)。ロンドン経済政治大学院・衛生熱帯医学校PhD。
複数の国際機関において中国を担当した後、九州大学を経て、2008年より大阪大学勤務。2014~2017年には東アジア
センター長(上海拠点)を兼任。
主な著書
『事例研究の革新的方法──阪神大震災被災高齢者の五年と高齢化社会の未来像──』九州大学出版会、2006年
『国際保健政策からみた中国──政策実施の現場から──』九州大学出版会、2007年
<執筆者>
張 玉梅(ZHANG Yumei) 第2章
四川省出身。四川大学外国語学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。後期課程退学。2013年に
開催された第24回国際開発学会全国大会において、優秀ポスター発表賞受賞。
李 婧(LI Jing) 第3章
四川省出身。四川大学外国語学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。2017年度公益財団法人
東華教育文化交流財団奨学生。2017年に北京大学で開催された第13回環太平洋大学協会 (APRU) Multi-Hazards
Symposium において、Paper Competition Award 受賞。
高 欣(GAO Xin) 第4章
大阪大学大学院人間科学研究科・特任研究員。
大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。博士後期課程単位取得満期退学。
2017~2018年度ロータリー米山記念奨学生。
王 藝璇(WANG Yixuan) 第5章
西南交通大学卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。同研究科博士後期課程在籍中。2021~2023年度
「社会と知の統合」を実現するイノベーション博士人材フェロー。
陳 逸璇(CHEN Yixuan) 第6章、コラム5、コラム6
四川省出身。四川大学外国語学部卒業(日本学生支援機構奨学金)。大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了
(文部科学省外国人留学生学習奨励費)。博士後期課程在籍中。2018年度公益財団法人東華教育文化交流財団奨学生。
公益財団法人村田学術振興財団研究者海外派遣、2019~2021年中国国家留学基金委員会奨学生。防災士(認定特定非営利
活動法人日本防災士機構)。
郝 憲生(HAO Xiansheng Ken) コラム1
防災科学技術研究所・主幹研究員
陳 光斉(CHEN Guanqi) コラム2
九州大学大学院基幹教育院・教授
張 建新(ZHANG Jianxin) コラム3
四川大学華西公共衛生学院・教授
藤本正也(ふじもと まさや) コラム4
国際協力機構(JICA)・安全管理部長
黄 暁波(HUAN Xiaopo) コラム7
四川大学外国語学院日本語学科・副学科長
田 兵偉(TIAN Bingwei) コラム8
四川大学ー香港理工大学灾后重建与管理学院・副教授