日韓の交流と共生 多様性の過去・現在・未来

シリーズ名
九州大学韓国研究センター叢書 5
著者名
森平雅彦・辻󠄀野裕紀・波潟 剛・元兼正浩 編
価格
定価 5,280円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0338-7
仕様
A5判 上製 244頁 C3336
発行年
2022年8月
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内容紹介

グローバル化の進展は、国家・地域間において相互理解を深める機会を提供する一方で、相互の摩擦や衝突を生み出す原因ともなっている。日韓関係も例外ではなく、大衆レベルでの往来が活発化する一方で、双方の社会が内包する価値観の差異にも起因する壁が、むしろ顕在化した面もある。そのような現実を乗り越えるためには、過去そして現在の多様な現場で、様々な課題を抱えるなか、むしろ不協和音が存在するからこそ、交流と共生への努力が不断に続けられてきたことに注目する必要がある  以上が本書を貫く主題である。

第1部「つながる、交わる  対馬海峡沿岸社会における中近世の現場  」では、近代国家の線引きが生まれる以前の相互交流について、中世(15・16世紀)の事象を中心に論じる。そこでは対馬海峡沿岸の生活者が交流の主な担い手となり、地域の論理がときに国家の論理を凌駕する状況すら生まれた。具体的には、朝鮮半島沿岸における日本人海民の漁撈活動や、そこに形成された日本人町、海域の交流現場に対する双方の中央社会の目線、ヒトやモノの行き来を物理的に支えた船舶の動きについてみていく。

第2部「出会う、伝え合う  学びの現場  」では現代の教育交流に注目し、在日コリアンの民族教育のために設置された韓国研究院が、広く韓国文化の発信窓口・交流窓口として役割を変化させる様相、韓国政府が進める韓国語海外普及事業に関する「現地主義」の視点からの考察、日韓の大学生が相互訪問を通じて協働学習に取り組んだアジア太平洋カレッジの試みを紹介する。

第3部「ことばを超える、国を越える  相互理解の現場  」では、言論・表現をめぐる問題を論じる。具体的には、ヘイトスピーチに関する当事者にして法曹人という立場からのメッセージ、在日コリアン作家の文学作品から得られる「気づき」、中国朝鮮族の映画監督チャン・リュルの国・民族の枠を越えた作品世界、フランスで活躍する韓国人作家グカ・ハンの「母語ではない言語」による創作がテーマとなるが、ここでは「越境」がキーワードとなる。

目次

 刊行にあたって
 
第1部 つながる、交わる 対馬海峡沿岸社会における中近世の現場
 
第1章 中世対馬の海民と日朝交流
 
 はじめに
 1 対馬藩の支配と社会
  古代の対馬/中世の対馬/高麗朝・朝鮮王朝との交渉と倭寇
 2 対馬島周辺海域における漁業
  網漁と網人/かつきめ(海女)/曲の海士
 3 朝鮮慶尚道海域における釣魚
  漁場をめぐる対馬・朝鮮間の交渉/対馬海民の釣漁と、朝鮮海民との紛争
 4 朝鮮全羅道海域における釣魚
  孤草島釣魚禁約/孤草島釣魚の実態/全羅道に出漁した対馬海民
 おわりに
 
第2章 朝鮮三浦の倭人町形成と管理体制
 
 はじめに
 1 浦所と倭人町の形成
  浦所と倭館/三浦倭人の生活形態
 2 三浦倭人の刷還と三浦への分置
  第1次刷還/恒居倭の公認と三浦への分置/三浦倭人の刷還に対する朝鮮と対馬の対応
 3 三浦倭人に対する収税案と収税
  留居税と田租/三浦倭人の漁業活動と魚税
 4 三浦代官
  三浦代官/三浦の倭酋
 5 三浦倭人の法的位置
  三浦倭人の禁限違反/三浦倭人に対する〈検断権〉
 おわりに
 
第3章 朝鮮王朝の二つの対馬認識 15世紀後半を中心として
 
 はじめに
 1 朝鮮の〈対馬=藩籬〉認識の形成
  「小国」と「藩籬」/「深処倭」と「藩籬」/〈対馬=藩籬〉認識の形成経緯
 2 朝鮮の対馬認識の矛盾
  対馬による〈対馬=藩籬〉認識の〝逆利用〟/朝鮮の姿勢・対応
 おわりに
 
第4章 美濃土岐氏による大蔵経請来と朝鮮 西日本以外の地域権力と朝鮮
 
 はじめに
 1 美濃承国寺のための日本国王使
 2 美濃一宮のための日本国王使
 おわりに:西国以外の地域権力の対外交流
 
第5章 航海からみた中世日朝交流 日本船の往来を事例として
 
 はじめに
 1 筑前・肥前―壱岐―対馬―朝鮮間の航路
  『海東諸国紀』にみる基幹航路/筑前博多―壱岐―対馬間の航路利用/肥前名護屋―朝
  鮮間の直航路利用/肥前五島―朝鮮間の直航路利用
 2 対馬―朝鮮間の航海
  対馬島内の基幹航路の変遷/佐護を発着地とする航海:西路の利用/浅茅湾口を発着地
  とする航海/鰐浦を発着地とする航海:東路の利用
 3 鰐浦―釜山浦間の航海
  荷船の場合/小早・関船の場合
 4 西路の補完的機能
  佐護―薺浦間の高速航行/西路の漕運体制
 おわりに
 
第6章 通信使船が対馬海峡を渡るとき
 
 はじめに
 1 航程
  釜山出航前/釜山出航後
 2 日本側の警護と案内
  護衛船団/相互の摩擦
 3 風への対応
  利用風/開き走りと間切り走り/占風
 4 航海安全の祈り
 おわりに
 
附論1 近代釜山における在朝日本人の水産業経営 日本の朝鮮移住政策との関連から
 
 はじめに
 1 釜山の在朝日本人社会と資本家の活動
  在朝日本人社会の形成/香椎源太郎の朝鮮進出/植民地朝鮮観について
 2 地域住民の朝鮮移住と定着
  福岡県の朝鮮移住政策/入佐村への移住
 おわりに
 
第2部 出会う、伝え合う 学びの現場
 
第7章 日本における韓国教育院の役割変容
 
 はじめに
 1 在日コリアンを対象とした教育組織設立の背景
  沿革/設立の背景
 2 韓国教育院の役割変遷
  初期:民族教育(≒反共教育)/1970年代:民族教育/韓国教育院設立後:社会教育を
  通した民族教育/2000年代(韓流)以降:ニーズ、層の変化
 3 これからの韓国教育院:「教育外交」組織としての可能性
  特殊性の希薄化/近年の主要事業:新たな試みへ向けて/「教育外交」組織としての教
  育院
 おわりに
 
第8章 対外言語普及と「現地主義」アプローチ
 
 はじめに
 1 対外言語普及研究の従来の視角
 2 新たな焦点:中国語と韓国語の事例
 3 「現地主義」アプローチの提唱
 おわりに
 
第9章 アジア太平洋カレッジの挑戦 PBL/TBLで学び合う国際共同教育プログラムの構築
 
 はじめに
 1 CAPの構成
 2 CAPの挑戦
  複合的な隣国関係をどのように理解するか:共通課題に取り組む/教育の質をどのよう
  に担保するか:PBLとTBLで海外の学生と学び合う/海外学生との協働学習の意義をど
  う生み出すか:2段階協働学習を進める
 3 東アジアを結ぶ協働学習の場を創出
  「課題協学」の海外版/グローバル人材へのファーストステップ/国境を越えた大学間
  教育ネットワークの模索
 おわりに:オンライン時代におけるCAP
 
第3部 ことばを超える、国を越える 相互理解の現場
 
第10章 日本のヘイトと在日コリアンとしての生 ヘイトクライム、ヘイトスピーチのない社会をめざして
 
 はじめに
 1 第1次ヘイトクライム京都事件
  事件の発端と衝撃/第1回襲撃/第2回襲撃/第3回襲撃/甚大な被害/民事訴訟提起の
  背景:警察、検察の非協力と構造的レイシズム/民事訴訟および判決の意義/判決を受
  けて
 2 第2次ヘイトクライム京都事件(刑事事件)
  事案の概要/第2次ヘイトクライム京都事件・刑事裁判の経過/判決を受けて
 おわりに
 
第11章 在日コリアン文学の現在
 
 はじめに
 1 深沢潮『緑と赤』(実業之日本社、2015年)
 2 崔実『ジニのパズル』(講談社、2016年)
 3 ヤン ヨンヒ『朝鮮大学校物語』(株式会社KADOKAWA、2018年)
 4 柳美里『JR上野駅公園口』(河出書房新社、2014年)
 おわりに
 
第12章 ディアスポラと労働・工作の表象 2014年以後のチャン・リュル映画についての一考察
 
 はじめに
 1 先行研究:韓国におけるチャン・リュル作品と思想の研究
 2 『慶州』(2014)以降の主人公と登場人物の特徴
 3 2014年以降のディアスポラの「労働」と「工作」との関係
 4 ディアスポラと記憶:チャン・リュルの創作思想の特徴
 5 チャン・リュル作品における東アジアのディアスポラの一般化
 6 翻訳されない言語と垣間見えるルーツ
 おわりに
 
第13章 母語でない言語で書くということ 言語の重さと速度、そして距離
 
(作家グカ・ハン氏オンライン講演会「母語でない言語で書くということ」(2020年12月
 15日)第1部を翻訳して収録)
 
附論2 《対談》フランス語のほうへ/から
 母語として存在しない〈物語〉をめぐるダイアローグ…グカ・ハン×辻野裕紀
 
 あとがき

著者紹介

<編 者>
森平雅彦(もりひら まさひこ)
九州大学大学院人文科学研究院教授。博士(文学、東京大学)
 
辻󠄀野裕紀(つじの ゆうき)
九州大学大学院言語文化研究院准教授。博士(文学、東京大学)
 
波潟 剛(なみがた つよし)
九州大学大学院比較社会文化研究院教授。博士(文学、筑波大学)
 
元兼正浩(もとかね まさひろ)
九州大学大学院人間環境学研究院教授。博士(教育学、九州大学)
 
<執筆者>
荒木和憲(あらき かずのり)第5章
九州大学大学院人文科学研究院准教授
 
李 泰勲(イ テフン)第2章
九州産業大学語学教育研究センター准教授
 
伊藤幸司(いとう こうじ) 第4章
九州大学大学院比較社会文化研究院教授
 
木村 拓(きむら たく)第3章
鹿児島国際大学国際文化学部准教授
 
具 良鈺(ク リャンオク)第10章
弁護士・高麗大学校一般大学院法学科博士課程
 
佐々木正徳(ささき まさのり)第7章
立教大学外国語教育研究センター教授
 
蔣 允杰(ジャン ユンゴル)附論1
韓国学中央研究院研究員
 
関 周一(せき しゅういち)第1章
宮崎大学教育学部教授
 
崔 慶原(チェ ギョンウォン)第9章
常葉大学外国語学部准教授
 
辻󠄀野裕紀 附論2
 
波潟 剛 第11章
 
西谷 郁(にしたに かおる)第12章
西南学院大学非常勤講師
 
グカ・ハン 第13章、附論2
作家
 
樋口謙一郎(ひぐち けんいちろう)第8章
椙山女学園大学文化情報学部教授
 
森平雅彦 第6章

学術図書刊行助成

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