国際的消費者行動論 マーケティング戦略策定へのインパクト
内容紹介
激化する国際的競争に対応するために,企業にはより多くの国際的な消費者情報が求められている。本書は,異なった市場における消費者行動は異なったものであるという前提に立ち,国際的消費者行動の体系的分析手法を編み出し,各市場の共通性のみならず差異性を明らかにし,それを企業の国際マーケティング計画に結びつけるというこれまでにない初めての試みである。
目次
原著者序文
謝辞
イントロダクション
競争優位性の展開/競争優位性と国際的な情報/国際的消費者行動 一般モデル /要約
第1章 文化 その多大な影響力
文化の研究/消費者行動のキー的決定要因としての文化/ウォレスの理論/文化の直接的・間
接的影響力/文化の補強/文化は容易には変化しない/要約
第2章 コミュニケーターとしての文化
地域性/時間の概念/学習/余暇活動/連携/相互作用/最低生活水準/プライベート空間
/男女の役割分担/資源の利用/これらの特性の利用について/要約
第3章 文化による選別
認知的および感情的反応/認知的影響/感情的反応/消費者行動における人間関係的および
人的決定要素/文化による選別/マーケティングに対する示唆/要約
第4章 文化の特定化と分類のための多様な試み
リースマンの分類/消費者行動に関連したリースマンの分類/ホールの高コンテキスト 対 低コン
テキスト区分/ホフステードの見解/ホフステードの見解のインパクト/ブリスリンの方向性/要
約
第5章 国際的消費者行動に関するモデル
文化:重要な構成要素/国際的消費者行動モデル/当モデルの操作化/国際的消費者行動の
指標/要約
第6章 消費者行動における社会階級と欲求階層
グローバル製品 対 地域的製品/マズローの欲求階層理論/国際市場の類型化/異なった国に
おける混合体/消費パターンの基盤としての社会階級/要約
第7章 「和」(Wa),「人の和」(Inhwa),「関係」(Quanxi)およびその他の協調関係
「関係」(Quanxi)/系列/その他の協調関係/要約
第8章 異文化におけるイノベーションの普及
国際的なイノベーションの態様と普及/正規曲線/普及理論の活用/物質主義変容のインパクト
/工業化/経済における重大な変化/普及過程の操作化:効果の階層性/データ/4つの文化
地域における普及/採用過程の比較/普及に基づくマーケティング計画/要約
第9章 原産地コンセプトと文化
製品情報想起の重要性/原産地想起の戦略的利用/複合 対 単一製品想起/戦略的意味合い
/国際ブランド/製品特性/国際的なブランド・ロイヤルティの形成/要約
第10章 国際市場細分化と消費者行動
伝統的考え方に対する挑戦/国際市場細分化における新しい考え方/戦略的等質的細分化/
事例/要約
第11章 関与と国際的消費者
消費者行動の主な要因としての関与/文化と関与/広告の役割/関与と親近感/知覚リスクと
その他媒介要因/感覚的関与 対 現実的関与/要約
第12章 学習と国際的消費者
国際市場における学習/学習スタイルと文化/学習スタイルと文化による選別との間の相互作用
/要約
第13章 消費者行動に基づく国際マーケティング戦略
学習・関与マトリックス/文化 普及マトリックス/消費者行動と連動した包括的戦略代替案/
例示/要約
エピローグ 国際的消費者行動の重要性 再論
文化の変化とそのインパクト/追加されるべき将来の研究領域
監訳者あとがき
主要参考文献
索引
著者紹介
<監訳者>
阿部真也(あべ しんや) イントロダクション,第4章,エピローグ
九州情報大学客員教授,福岡大学名誉教授,博士(経済学)。
福岡大学商学部教授,商学部長,大学院商学研究科長などを経て,2005年から九州情報大学教授。
日本学術会議第3部会員,福岡市大規模小売店舗立地審査会会長,福岡県消費者協会会長などを歴任。
主著:『現代の流通経済』(共編,有斐閣選書),『グローバル流通の国際比較』(有斐閣),『現代流通経済
論』(有斐閣),『流通経済から見る現代』(ミネルヴァ書房),『マーケティングと経済発展 先進国と発展
途上国』(共訳,ミネルヴァ書房)など多数。
山本久義(やまもと ひさよし) 第1,5,13章
九州産業大学商学部教授,博士(経営情報学)。
同大学院経済・ビジネス研究科現代ビジネス専攻主任教授。
英検1級,福岡商工会議所主催・アメリカ流通視察研修旅行コーディネーター兼通訳,唐津市地域ブランド
推進委員会委員長,福岡県商工会連合会主催・地域特産品開発事業・地域観光開発事業などの委員長,
福岡市公的経営機関非常勤理事などを歴任。
主著:『中堅・中小企業のマーケティング戦略』(同文舘),『ルーラル・マーケティング戦略論』(同文舘),『実
践マーケティング管理論』(泉文堂),『現代のサービス経済』(ミネルヴァ書房)など多数。
<訳者>
宮崎哲也(みやざき てつや) 第8,11章
大阪国際大学国際コミュニケーション学部教授
山口夕妃子(やまぐち ゆきこ) 第10章
長崎県立大学経済学部准教授,博士(商学)
秋吉浩志(あきよし こうじ) 第2,6,9章
九州情報大学経営情報学部講師
内田寛樹(うちだ ひろき) 第3,7,12章
福岡大学商学部非常勤講師
<原著者>
A. コスカン・サムリ(A. Coskun Samli)
北フロリダ大学のマーケティングおよび国際ビジネスの担当教授。最近の著作として,Counterturbulence
Marketing(1993),Social Responsibility in Marketing(1992),Retail Marketing Strategies(1989),
Marketing and the Quality-of-Life Interface(1987)(いずれもQuorum出版社より刊行)がある。このほか,
マーケティング分野における著書や共著が30冊以上,200以上の論文がある。フォード財団の評議員,フル
ブライトの特別講師などを務め,7つの専門雑誌の書評委員でもある。マーケティング・サイエンス・アカデ
ミーの特別会員。サムリ教授は,世界各地で講義をおこない,国際マーケティングや国際的消費者行動の
諸問題について論じている。
書評
日経広告研究所報 255号 「ブックレビュー」より 評者 慶應義塾大学商学部教授 高橋郁夫 氏公共交通機関および情報通信網の発達によって、国境を超えた人々の往来とコミュニケーションは、ますます活発化している。また、かなりの産業で企業のグローバル化が進み、世界の隅々にまで普及した製品やサービスも数多く存在する。
1980年代の中頃、ハーバード大学のレビット教授とノースウエスタン大学のコトラー教授は、国境を超えたマーケティング活動が、消費者の国際的な同質性を踏まえて標準化されるべきか、あるいは、その異質性に着目して現地適応すべきかという論争を引き起こした。今でも、この論争は、グローバル・マーケティング論の主要論題のひとつであり、以前、本欄で紹介したゲマワット教授の著作(『コークの味は国ごとに違うべきか』文藝春秋)も本書と同様、現地適応論であった。
本書は、13の章とその前後のイントロダクションおよびエピローグから成り、この論争に対して一石を投じている。まず、イントロダクションで、本書の問題意識とその基盤となる国際的消費者行動の一般モデルを提示する。第1章から第4章では、文化を、市場の同質化を弱め、異質性を存続させる要因と位置づけ、国際的消費者行動に影響を及ぼす文化の諸側面について論じている。続く第5章では、本書の理論的基盤とも言える国際的消費者行動モデルを提示している。
第6章および第7章は、社会階層と社会における人々の関係性について述べている。第8章および第9章では、異文化における革新の伝播と原産地想起について、既存研究と独自調査の結果が示されている。
第10章は、現地適応戦略に必須の国際市場の細分化に関し、従来の細分化手法とは異なる新たな手法を示している。さらに、第11章および第12章は、関与と学習という消費者行動の内部要因について述べ、第13章で国際マーケティングの方法と、最後のエピローグで今後の課題を整理している。
本書の特長としては、次の3点を挙げることができる。第1は、本書が国際的な視野に立ったおそらく初めての消費者行動の研究書であるという点である。上述のように、内容的に多岐にわたる消費者行動の国際比較研究の成果を一定の枠組のもとでまとめており、学術面での貢献が評価できる。
第2は、国際的消費者行動の一般理論を提示し、そこに消費者行動の差異を説明する要因として、文化や社会階層といったマクロ的要因だけでなく、関与や学習といった消費者個人に内在するミクロ的要因を組み込んでいる点がユニークである。
第3は、標準化か現地適応かというグローバル・マーケティング論の論争に対して、消費者行動研究の立場から現地適応支持の根拠を明らかにしようとした点である。冒頭にも述べたように、標準化の理論的根拠は、国家間の類似性や共通性にあるが、本書は、反対に差異性に着目することによって、市場への価値提供力を高めることができるとしている。また、現地適応に通じる市場細分化の手法にも言及するなど、実務面での貢献度が高い。
著者のサムリ教授は、これまで消費者行動に関する多くの著作を発表してきた。そのうちの1冊の書評をここに記すこととなったが、以前、米国フロリダで開催されていた国際学会で、評者と同じセッションで報告されたのも何かの縁であろう。本書は、テーマの大きさゆえ、その体系と内容が必要十分なものとは言い難いかもしれない。むしろ、本書がきっかけとなり、世界的視野での消費者行動研究が一層活発になることを評者として期待するものである。