内容紹介
情報科学等の現代的諸科学を大幅に取り入れ、コンピュータ等を用いて実際の社会・環境・経営等を含む経済現象を分析することを試みる学問として「経済科学」を定義し、その立場から社会システムの諸問題の解決に取り組む研究成果シリーズの第17集。
第1章:企業によるグリーンウォッシュ行為とそれに対する情報開示政策の効果に関する理論分析を行う。本章では、たとえ情報開示政策によってグリーンウォッシュが抑制されたとしても、それが必ずしも社会的に望ましい結果をもたらすとは限らないことを示す。すなわち情報の透明性を高めることが、かえって環境投資の抑制や社会厚生の低下を引き起こす可能性がある。この結果は情報開示制度の設計に対して重要な含意を持つ。
第2章:1961年から2019年の世界137か国を対象としたパネルデータを用いて、気温変化が農業労働生産性に与える影響を検証する。本章の検証では、低所得国においては、基準気候値に対して気温が1℃上昇すると、農業労働生産性が13.3%低下することが示される。さらに、地球温暖化の加速が顕著である2000~2019年のサブサンプルでは、世界全体のサンプルにおいて有意な負の効果が観察され、従来は脆弱性が低いと考えられてきた高所得国においても影響が確認された。これらの結果は、途上国における標的を絞った適応政策の必要性を強調するとともに、高所得国であっても近年の温暖化によるリスクに直面し得ることを示しており、気候変動に強靱な農業戦略に向けた国際的協力の重要性を示唆している。
第3章:気象データを用いた自然景観の発生予測に取り組む。東京都檜原村の払沢の滝は、日本の滝百選にも選ばれている滝であり、冬季には滝の凍結現象である「氷瀑」が見られることから有名になり、観光名所になっている。本章では、この氷瀑について、気象予報の基になる全球数値予報モデルGPV(Grid Point Value)を用いて、何日以前から氷瀑の発生の予測が可能か調査を行った。観光客にとっては事前に氷瀑の発生が分かれば旅行計画を立てるうえでも有益であり、観光業者にとってもメリットがあると考えられる。加えて、氷瀑の発生予測は潜在的な観光客数の増加にも結び付くと思われる。
第4章:広島修道大学経済科学部3年生向け授業「ゼミナールI」において実施された、学生が主導する4つのオークションの結果をまとめたものである。この取り組みの主な目的は、学生がこれらの制約を可能な限り包括的に予測し、必要に応じてルールを変更し、オークションをうまく実行できるようにすることである。結果としてこの取り組みにおける教育目標は概ね達成されたが、学生が潜在的な問題に対してより広範な想定を行うために、より広範な指導を提供することが重要であることが明らかになった。
第5章:電子機器利用者の手や指、顔の動きを低コストで計測する手段や分析法に関する研究論文である。本章では、人間の外見的情報だけでなく、内面的情報として生体情報も計測できるようにシステムを拡張する方法を紹介する。具体的には、MediaPipeを使ってWebカメラから人間の外面的情報として手指や顔の動作と全身の姿勢を取得し、脳波センシングヘッドバンド MUSE2から内面的情報として生体情報(脳波)を取得する。これらのデータ取得は、プログラミング言語Python の機能の一つである multiprocessing Process を使用して並列処理される。実験では、コンピュータのキーボード入力時における手指の動作と脳波を同時に計測し、その関係性を可視化した実験結果を示す。我々の提案法は、PC利用者、作業者、学習者などの行動の評価・認識に貢献することや,マルチモーダルAIへのデータ提供が期待される。
第6章:純粋中間財(一切最終消費されず他の製品の製造にのみ使われる財)に対する完全競争市場のモデルに焦点を充て、貿易における垂直的特化(国をまたいだ生産工程の分業化)に関する理論研究を概観するサーベイ論文である。このような市場構造は貿易における垂直的特化を分析する上で最も単純なものの一つである。この種のモデルは次のような国際貿易に関する疑問に対する重要なベンチマークを与える:どのような国がどのような生産工程に比較優位を持つか?(より直接的に、どのような基本的なメカニズムがグローバルサプライチェーンを形成するか?)貿易政策はグローバルサプライチェーンの下でどのような影響を与えるか?