海洋少年団の組織と活動 戦前の社会教育実践史
内容紹介
大正末期から終戦まで日本各地で活動していた海洋少年団について,海軍や少年団の史料を検討し,組織の全体像と実際の活動を明らかにした。海洋少年団を設立した人物とその動機,全国組織や地方組織のあり方,活動の方法論,参加した子どもが学んだ知識や技術,各地域や全国規模の活動の様子,指導者の養成,海軍や文部省など外部機関との関係,戦時体制に対応する組織や活動の転換など,テーマ毎の構成である。大人や子どもの言説を随所に挿入した,臨場感あふれる記述となっている。
目次
発刊によせて 社団法人日本海洋少年団連盟事務局長 堀川信夫
発刊によせて 公益財団法人ボーイスカウト日本連盟事務局長 吉田俊仁
序章 本書の対象・課題・方法
第1節 研究の対象
第2節 先行研究の到達点
1.少年団に関する先行研究
2.宮原誠一による少年団研究の視点の検討
第3節 研究の課題と方法
第4節 使用する史料
第1章 海洋少年団の結成
第1節 英国におけるシースカウトの成立
1.シースカウトの構想
2.シースカウトの発足
3.英国におけるボーイスカウトに関する論考
第2節 日本における海洋少年団の構想
1.組織的な海岸キャンプの実施
2.『スカウティング・フォア・ボーイズ』の日本語訳
第3節 海洋少年団の発足
1.雑誌『海国少年』と海国少年団
2.海国少年団の軍艦便乗
3.兵庫・北海道・広島における海洋少年団の結成
第4節 東京海洋少年団の結成過程
1.退役海軍軍人による海洋少年団設立の動き
2.東京海洋少年団の結成
第5節 少年団日本連盟の対応と全国展開
1.少年団日本連盟海洋健児部の設置
2.全国に展開する海洋少年団
小括
第2章 海洋少年団の活動と指導者養成
第1節 海洋少年団の方法論
1.異年齢少人数集団
2.海洋少年団員に求められる知識と技術
3.技能章制度
4.海洋少年団員の「自発性」や「個性」を尊重する原道太の考え
第2節 都市における海洋少年団の活動
1.東京海洋少年団の活動
2.東京高等商船学校との合同訓練
3.丸ノ内青年訓練所との合同訓練
4.客船での労働体験
第3節 漁村における海洋少年団の活動
1.漁村における海洋少年団の結成
2.漁村における海洋少年団の意義
3.活動資金の自己調達
第4節 海洋少年団指導者の姿
1.海洋指導者実修所の参加者
2.指導者に求めたこと
第5節 海洋少年団における指導者養成
1.神戸高等商船学校における第1回海洋指導者実修所
2.海軍兵学校における第2回海洋指導者実修所
3.その後の海洋指導者実修所
小括
第3章 海洋少年団の合同訓練と海軍の対応
第1節 全国の海洋少年団員が集う海洋合同訓練
1.陸海合同の全国合同野営
2.海軍兵学校における第1回海洋合同訓練
3.軍艦上での第5回・第6回海洋合同訓練
4.練習船上における第7回海洋合同訓練
第2節 練習船による南洋遠航(東南アジア一周航海)の実施
1.航海の企画
2.航海の目的に対する海軍の意見
3.寄港地の選定
4.団員の募集
5.南洋遠航の実施と寄港地での様子
6.参加した少年の感想
7.航海における学術的な研究
8.海軍と文部省の反応
小括
第4章 海洋少年団に対する外部機関の態度
第1節 海洋少年団と海軍の関係
1.大正期の海洋少年団と海軍
2.現役海軍軍人の受動的態度
3.軍艦便乗と海軍からの払い下げ
4.海軍観艦式への参加
5.練習船「忍路丸」の改造と「義勇和爾丸」への改称
第2節 海洋少年団の海軍に対する考え方
1.海洋健児部長原道太の考え
2.海洋少年団員の進路
第3節 海洋少年団と社会教育・学校教育の関係
1.社会教育行政との関係
2.校外生活指導に関する訓令の影響
3.北海道帝国大学から練習船の譲渡
4.学校教育や社会教育関係団体などへの海上教育支援
第4節 昭和天皇による練習船への乗船
1.天皇による乗船の経緯
2.天皇による乗船の意味
第5節 練習船のシャムへの譲渡案と処分
小括
第5章 大日本海洋少年団としての独立と解散
第1節 海洋少年団が少年団の全国組織から分離独立する背景
1.陸と海の少年団における教育・訓練内容の乖離
2.海軍大将の少年団日本連盟総長就任
第2節 大日本海洋少年団の独立と展開
1.全国組織としての大日本海洋少年団の設立
2.海軍による積極的な関与
3.大日本海洋少年団全国大会の開催
第3節 大日本海洋少年団に対する海軍と文部省の統制
1.男女青少年団の統合に参加しなかった大日本海洋少年団
2.海軍と文部省の思惑
3.海洋道場と大日本学徒海洋教練振興会の設置
4.大日本海洋少年団における訓練項目
5.少数精鋭主義の学校海洋少年団
第4節 第2次世界大戦末期の大日本海洋少年団
1.終戦直前の海洋少年団
2.大日本海洋少年団の解散
小括
終章 第2次世界大戦前と戦時下における海洋少年団の組織と活動
第1節 本書の総括
第2節 今後の研究
1.子どもを対象とした社会教育史の研究視角
2.今後の研究課題
3.海洋思想史,海洋思想教育史研究の必要性
参考・引用文献一覧
巻末年表
第1のあとがき(2001年1月)
第2のあとがき(2011年4月)
索引
著者紹介
圓入智仁(えんにゅう ともひと)
1977年,大阪府に生まれる。
九州大学教育学部卒業,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程中退。
大阪市役所職員(福祉職),九州大学大学院人間環境学府発達・社会システム専攻博士後期
課程,中村学園大学短期大学部幼児保育科講師を経て,現在,中村学園大学短期大学部
幼児保育学科准教授。修士(地域研究),博士(教育学)。
共著書に『一時保護所の子どもと支援』(明石書店,2009年),『タイ事典』(めこん,2009年)などがある。
推薦文
社団法人日本海洋少年団連盟事務局長 堀川信夫氏我が国は,四面を海に囲まれており,輸出入に伴う大量の物資の輸送,魚や海産物の生産,海底資源の利用などその海から沢山の恩恵を受けています。 日本海洋少年団連盟は,このかけがえのない海を拠点として,全国の少年少女に対して,海事思想の普及と健全な心身を育成するための活動を続けてきております。 近年は,引きこもりや家庭内暴力などの問題とともに,少年少女が対象となる犯罪や被害が多発しています。これらの問題を抱える可能性のある現在の少年少女に対して,人間性や社会性を養う体験の場を提供することは,我々大人たちに与えられた課題であり,責務でもあります。 本書は,圓入智仁さんが海洋少年団に関する長年の研究の成果をまとめられたものであり,海洋少年団活動について歴史的な視点から深い考察がなされています。どのような組織が,どのような目的を持って,何を行い,その結果どうなったかという歴史に学ぶべき課題は,停滞感の伴う今日,私たちがまさに直面している関心事であります。 本書が海洋少年団関係者ばかりでなく,子どもを対象とした社会教育関係者の活動に,大きく寄与することを期待いたします。 公益財団法人ボーイスカウト日本連盟事務局長 吉田俊仁氏
このたび発刊の本書は,圓入智仁さんの長年の研究対象である,戦前から戦時下における海洋少年団についてまとめたものであり,副題のとおり,我が国の社会教育実践の歴史について考察したものでもあります。 戦前の海洋少年団は,その活動において,ボーイスカウトの教育的手法を取り入れてきたこともあり,1922年に創立した少年団日本連盟(ボーイスカウト)にも全国各地の海洋少年団が加盟をしていた歴史があります。両団体は,その後の第二次世界大戦に向かう大きな時代の背景などにより,残念ながら,別々の道を辿ることとなりました。しかし,本研究では,戦前から戦時下において健やかな子どもを育成するという使命をもった青少年団体が,当時どのような活動を行ってきたのか,ボーイスカウトに重ねて読むことができます。 2012年に日本のボーイスカウトは90周年を迎えます。その節目における本書の発行は,この90周年を単に私たちボーイスカウトだけで祝うのではなく,ともに歩んできた仲間たちと互いに尊重し,協力しながら,明日を担う子どもたちの育成に邁進すべきであるという方向性を示唆してくれているように思えます。 圓入さんは,少年時代からボーイスカウト活動に参加し,国内,世界の大会(ジャンボリー)を始め,海外派遣に参加をしながら,後輩たちの育成のために指導者としても活躍をされてきました。本書は,私たち社会教育に関与する者にとって,大変有意義なものであるとともに,仲間としても大変嬉しく,誇りに思う次第です。 海洋少年団関係者,ボーイスカウト関係者のみならず,広く多くの青少年教育や社会教育関係に携わる方々が,本書を活用されることを期待いたします。