変化する東アジアの高等教育 国際化と人材育成の視点から

シリーズ名
山口大学東アジア研究叢書8
著者名
国立大学法人山口大学大学院東アジア研究科 編著
高橋俊章・山本冴里 編集責任
価格
定価 4,180円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0397-4
仕様
A5判 上製 184頁 C3037
発行年
2026年3月
ご注文
  • 紀伊國屋
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • セブンネットショッピング

内容紹介

本書は、グローバル化とデジタル化が加速するなかで、東アジアの大学が直面する国際化の動向と人材育成の課題・可能性を、実証研究と教育実践の両面から立体的に描き出すものである。留学、言語教育、職業教育という三つの柱を通じて、「誰が、どのような条件のもとで、どのように学び、成長しているのか」という問いに迫る。

第Ⅰ部「留学と国際教育」では、まず中国大陸の大学を985大学・211大学・一般大学という階層に分け、留学機会や留学先、学生の留学志向の違いを分析し、大学間での留学格差と「エリート留学」をめぐる神話の変容を明らかにする(第1章)。ついで、中国の二本大学である濰坊学院を事例に、日本語学科卒業生の日本留学率がきわめて低い理由を、言語能力・経済状況・情報アクセス・適応不安・提携校不足などのボトルネックとして整理し、留学支援政策のあり方を具体的に検討する(第2章)。

第Ⅱ部「言語教育と文化的背景」では、まずベトナムの高等教育機関における日本語教育の歴史と現状を概観し、日本語専攻の拡大と人材ニーズの変化を跡づけるとともに、教員不足や教材の現地化といった課題を明らかにする(第3章)。続く第4章では、台湾人日本語学習者を対象に、日本語の「無標識可能表現」(見える・入るなど)の理解と誤用を詳しく分析し、中国語との構造差や文化的慣習の違いが学習に与える影響を検討する。第5章は、インドネシア・バリと日本のEFL学習者を比較し、L2モチベーショナル・セルフ・システムを枠組みに、理想自己・義務自己・学習経験、自己効力感や外国語不安といった要因が英語学習動機に及ぼす影響を明らかにしている。第6章では、交換留学生による共同調理場面での日本語使用に着目する。母語話者規範からは「逸脱」と否定されかねない表現が、実は話し手・聞き手が自身の文化的背景・経験を照らし合わせながら、互いに即興的に意味を構築しあう過程で生じること、「言語規範の拡大」や「造語」といった創造的な言語使用が協働作業を支えていることを描き出す。

第Ⅲ部「職業教育と専門知識・スキル」では、まず、日本の教員養成や職業教育を中心に、Society 5.0 や OECD ラーニング・コンパス2030などの枠組みを参照しつつ、VUCA時代に求められる資質・能力とICT・AI活用の方向性を整理する(第7章)。続く第8章では、日本の専門学校・高専・専門職大学等の職業教育システムを概観したうえで、オンラインプラットフォームや協働学習アプローチを組み合わせた教育実践、さらにはインドネシアの土木工学教育(建設図面コース)におけるICT活用の事例を紹介し、東アジアにおける実践的な人材育成モデルを提示する。

終章では、これら各章の知見を踏まえ、東アジアの高等教育に共通する課題と多様性を横断的に整理している。留学機会の不平等や言語・文化能力の格差、デジタル技術へのアクセスの違いは、国や大学の境界を越えて複雑に絡み合っており、それらをいかに乗り越えるかが、今後の人材育成を考えるうえでの鍵となる。また、言語教育や職業教育の現場で生まれている創造的な実践は、単に「技能」を教えるにとどまらず、異文化理解や協働的問題解決力といった、グローバル社会を生きるうえで不可欠なコンピテンシーを育む営みとして再評価されるべきであることが示される。

本書は、東アジアの高等教育研究に携わる研究者や大学関係者だけでなく、国際教育・日本語教育・英語教育・職業教育に関心をもつ実務家や学生にとっても、多様なケーススタディと理論的枠組みを提供する。国境を越えた人材育成の協力や、大学・地域・産業界の連携を構想する際の、理論的かつ実務的なガイドブックとして活用できる一冊である。

目次


『山口大学東アジア研究叢書⑧』の刊行について

序 章
 
 はじめに
 1 研究の背景と意義
 2 主要テーマ(留学、言語教育、職業教育)の明確化と相互関連性
 3 本書の構成と各章の概要
 おわりに

   第1部 留学と国際教育:国際流動性時代の人材育成の基盤としての留学
 
第1章 中国における大学間の留学志向の比較
 
 はじめに
 1 留学の展開
 2 異なる階層の大学間の留学志向
 3 留学意識モデル
 おわりに
 
第2章 中国の大学生が感じる国外(日本)留学のボトルネック
 
 はじめに
 1 先行研究
 2 研究方法
 3 調査の結果
 おわりに
 
第3章 ベトナムの高等教育機関による日本語教育の役割と課題
 
 はじめに
 1 大学における日本語教育の概要
 2 日本語教育の役割とカリキュラムの整合性
 3 日本語教育の課題と対策
 おわりに

   第2部 言語教育と文化的背景:多言語・多文化社会への適応力を高めるための
        言語教育の役割

 
第4章 台湾人学習者にとっての日本語無標識可能表現
 
 はじめに
 1 先行研究
 2 調査方法
 3 分析および考察
 おわりに
 
第5章 外国語学習における動機付け要因:バリ人と日本人EFL学習者の比較研究
 
 はじめに:研究の背景と目的
 1 理論的枠組みと先行研究レビュー
 2 研究方法論:対象と調査デザイン
 3 アンケート個別質問の結果に基づく動機付け要因の文化的比較
 おわりに:東アジアにおけるEFL動機付けの文化的理解と教育的示唆
 
第6章 交換留学生の共同調理場面における即興的・創造的な言語使用
      言語規範の拡大と造語に注目して  
 
 1.課題の設定
 2.非母語話者間でのコミュニケーション
 3.共同での調理場面
 4.調査の概要
 5.分析
 6.考察
 おわりに

   第3部 職業教育と専門知識・スキル:AI・デジタル時代における専門知識と
        スキル育成の最前線

 
第7章 高等教育におけるICT・AI活用の現状と今後の可能性
 
 はじめに
 1 これからの人材育成で必要となる資質・能力とICT・AI活用
 2 授業・学習におけるICT・AI活用の理論と実践
 3 教員養成教育におけるICT・AI活用の現状と今後の可能性
 おわりに
 
第8章 統合型オンラインプラットフォームと協働学習アプローチによる職業教育の強化
 
 はじめに
 1 職業教育の定義と種類
 2 日本の職業教育におけるICT・AI活用の理論と教育実践
 3 諸外国における職業教育のICT・AI活用の現状と今後の可能性
 4 職業教育における統合型学習オンラインプラットフォームと協働学習アプローチ:
    インドネシア・Sebelas Maret 大学の事例紹介
 おわりに

終 章
 
 はじめに
 1 各章での主要な知見
 2 横断的に章をつなぐ幾つかの観点
 3 今後の研究に必要な観点
 おわりに  未来のために
 
 索引

著者紹介

<編集責任者>
高橋俊章(たかはし としあき)序章・第5章
山口大学教育学部教授、同大学院東アジア研究科社会システム分析講座主任。博士(教育学)(広島大学)。
専門は英語教育学・外国語教育、とくに第二言語習得の観点からみた英語冠詞の習得と文法指導である。
日本人英語学習者の冠詞選択のプロセス・モデルの構築や、コーパス分析に基づく冠詞使用パターンの解
明、習得段階に応じた冠詞指導法の開発などに取り組んでいる。
主な業績
『教育文法的観点による日本人英語学習者への冠詞指導』(溪水社、2010)
 Takahashi, T. (2024) “Article Usage Patterns Based on Corpus Analysis and Their Pedagogical
 Implications for Japanese EFL Learners”, ARELE: Annual Review of English Language Education
 in Japan
, 35, pp. 81–96
 
山本冴里(やまもと さえり)第6章・終章
山口大学国際総合科学部、同大学院東アジア研究科准教授。博士(日本語教育学)(早稲田大学)。
日本・フランスでの複数の教育機関を経て2018年より現職。専門は日本語教育、複言語教育で、特に興
味のある概念は「境界」と「周縁」。
主な業績
『戦後の国家と日本語教育』(くろしお出版、2014)
 欧州評議会言語政策局著『言語の多様性から複言語教育へ  ヨーロッパ言語教育政策策定ガイド  
 (翻訳、くろしお出版、2016)
『複数の言語で生きて死ぬ』(共著、くろしお出版、2022)
『世界中で言葉のかけらを  日本語教師の旅と記憶  』(筑摩書房、2023)
『8週間語学の旅  水先案内人はずれっちと様々な言語の海へ  』(KADOKAWA、2025)
『複数の言語で生きて死ぬ 人生物語編』(共著、くろしお出版、2025)

<執筆者>
程攄懐(テイ ジョカイ)第1章
中国・湖南工業大学言語文化とメディア学部・大学院講師。博士(学術)(山口大学)。
山口大学大学院東アジア研究科修了。山口大学東アジア研究科コラボ研究員、湖南工業大学外国語学部
助教を経て2024年より現職。専門は大学の国際化の国際比較を主とした比較教育学。
主な業績
「中国の留学生教育にみる国際交流の消極性」『東アジア研究』山口大学大学院東アジア研究科、2021、
 第19号、pp. 67-82
「大学の国際化と留学生のイメージの中日比較」『教育実践総合センター研究紀要』山口大学教育学部、
 2024、第57号、pp. 85-93
 
張学盼(チョウ ガクハン)第2章
山東省学院外国語学院日本語学科専任講師。博士(学術)(山口大学)。
山口大学大学院東アジア研究科修了。専門は留学生、技能実習生ならびに外国人労働者への日本語教育に
関する研究。博士論文では、指示が多く、かつ危険性を伴う鉄骨工場をフィールドとし、中国人技能実習
生に向けられた日本人同僚の発話を分析することから、現場の日本語表現が持つ特徴を明らかにした。
主な業績
「技能実習生に向けられた日本語母語話者の文末表現の特徴:鉄骨工場における作業現場のデータと講習
 用教材との比較から」『東アジア研究』山口大学大学院東アジア研究科、2021、第19号、pp. 47-66
「日本語のスピーチレベルシフトの生起条件と機能:鉄骨工場で働く技能実習生に向けられた日本人同僚
 の発話の分析から」『東アジア研究』山口大学大学院東アジア研究科、2023、第21号、pp. 51-74
 
Vuong Thi Bich Lien(ウォン ティ ビック リエン)第3章
ベトナム・ハロン大学(Ha Long University)日本語学科、日本語講師兼学科長。博士(学術)(山口大学)。
山口大学大学院東アジア研究科修了。ベトナムの複数の大学(ハロン大学、ハノイ国家大学附属日越大学な
ど)の日本語講師を務めたのち、1998年より現職。専門は東アジア研究、日本語教育開発、国語研究。
主な業績
「若年層の言葉における感動詞の品詞転成について」『東アジア研究』山口大学大学院東アジア研究科、
 2012、第10号、pp. 53-65
『持続可能な大学の留学生政策  アジア各地と連携した日本語教育に向けて  』(共著、明石書店、
 2019、第11章「ベトナム」担当)
「ベトナム人との異文化適応に対する日本語学校及び日系企業の取組みに関する研究」『経営経済』大阪
 経済大学中小企業・経営研究所、2024、第59号、pp. 83-92、共著
 
黒﨑貴史(くろさき たかし)第4章
臺灣・國立政治大學外國語文學院日本語文學系助理教授。博士(学術)(山口大学)。
山口大学大学院東アジア研究科修了。専門は日本語学、社会言語学。主に新語の形成プロセスや語用論的
機能について研究。
主な業績
「言語行動から見る新語形成プロセスについて  熟議を利用して  」『東アジア研究』山口大学大学院
 東アジア研究科、2017、第15号、pp. 51-70
「西日本方言話者の用いる「クナイ」について」『山口大学教育学部研究論叢』山口大学教育学部、2021、
 第70巻、pp. 273-282、共著
「山口県若年層が用いる同意要求表現「ンジャナイ」「(ッ)ポクナイ」「クナイ」について」『政大日本研
 究』國立政治大學日本語文學系、2024、第21号、pp. 131-168
「自由エネルギー原理を用いた新語形成プロセスに関する試論」『銘傳日本語教育』銘傳大學教育暨應用
 語文學院應用日語學系、2025、第28号、pp. 57-86
 
有元光彦(ありもと みつひこ)第4章
山口大学国際総合科学部、同大学院人間社会科学研究科、同大学院東アジア研究科教授。博士(学術)(広
島大学)。
専門は言語学、特に日本語方言の音韻論、談話の感動詞類研究。
主な業績
『九州西部方言動詞テ形における形態音韻現象の研究』(ひつじ書房、2007)
『山口県のことば』(共著、明治書院、2017)
『感性の方言学』(共著、ひつじ書房、2018)
『日本語学大辞典』(共著、東京堂出版、2018)
『明解方言学辞典』(共著、三省堂、2019)
Handbook of Japanese Dialects(共著、De Gruyter Mouton, 2025)
 
Putu Ayu Asty Senja Pratiwi(プトゥ アユ アスティ スンジャ プラティウィ)第5章
インドネシア・ウダヤナ大学(Udayana University)人文学部英文学科准教授。博士(学術)(山口大学)。
山口大学大学院東アジア研究科修了。2010年よりウダヤナ大学で教育・研究に従事している。山口大学博
士課程在学中には、山口大学のリサーチ・アシスタントおよびティーチング・アシスタントを務めた。ま
た、2017〜2021年には、日本の野田小・中学校において英語教員として勤務した。研究分野は応用言語学
およびTEFL(外国語としての英語教育)、学習者の信念と学習ストラテジーに加え、持続可能な開発とグロ
ーバル・シティズンシップの観点から見た言語教育とグローバル文化の統合である。国際学会での発表も多
数行っており、実践的な英語運用能力の育成を重視した教科書『English for Communication Studies』の
著者でもある。
 
Chidchanok Thepbundit(チッチャノック テバンディット)第6章
タイ・チェンライラチャパット大学(Chiang Rai Rajabhat University)人文社会学部東アジア言語学科日
本語専攻専任講師。博士(学術)(山口大学)。
山口大学大学院東アジア研究科修了。専門は日本留学、留学生に関するコミュニケーション研究。博士論
文では、交換留学生同士のコミュニケーション能力の再評価と「相手の言語」を用いる実践を中心とした
分析。関心領域はメトロリンガリズム、セミオティック資源の活用、多文化・多言語社会における相互行
為。共生を促進する新たなコミュニケーションのあり方の探究。
主な業績
「交換留学生同士の日常会話におけるコードスイッチングの機能  『相手の言語』に切り替える事例」
 『東アジア研究』山口大学大学院東アジア研究科、2025、第23号、pp. 41–61
 
鷹岡 亮(たかおか りょう)第7章・第8章
山口大学教育学部、同大学院東アジア研究科教授。博士(工学)(電気通信大学)。
電気通信大学大学院情報システム学研究科後期博士課程単位取得退学。電気通信大学大学院情報システム
学研究科助手、山口大学講師、助教授、准教授を経て2014年より現職。専門は教育工学(特に、学習支援
技術の研究・開発、情報教育に関する研究・教育実践)に従事。
主な業績
 Takaoka, R., Shimokawa, M. and Okamoto, T.(2012) “A Development of Game-based Learning
 Environment to Activate Interaction among Learners” IEICE TRANS.INF. & SYST., vol. E95-D, no. 4,
 pp. 911-920
 
中田 充(なかた みつる)第7章・第8章
山口大学教育学部、同大学院東アジア研究科教授。博士(工学)(福井大学)。
1998年福井大学大学院工学研究科修了。山口大学教育学部講師、同准教授を経て2014年より現職。専門は
情報科学、情報教育。
 
Abdul Haris Setiawan(アブドゥル ハリス セティアワン)第8章
インドネシア・スブラス・マレット大学(Sebelas Maret University, UNS)職業教育学部准教授。博士(学
術)(山口大学)。
山口大学大学院東アジア研究科修了。専門は土木・建築工学を中心とする職業教育学であり、eラーニング
や協調学習を取り入れた職業教育カリキュラムの開発に従事している。とくにプロジェクト型学習や反転授
業を組み合わせた建設製図教育の研究を行い、その成果の一部はIEEE TALE 2020においてBest Paper Award
を受賞した。
主な業績
 Setiawan, A. H., Takaoka, R., Tamrin, A., Roemintoyo, Murtiono, E. S., & Trianingsih, L. (2021).
 “Contribution of Collaborative Skill toward Construction Drawing Skill for Developing Vocational
  Course”, Open Engineering, 11(1), 755–771

ご寄附のお願い

お勧めBOOKS

若者言葉の研究

若者言葉の研究

生きている言語は常に変化し続けています。現代日本語も「生きている言語」であり、「…

詳細へ

犯罪の証明なき有罪判決

犯罪の証明なき有罪判決

冤罪はなぜ起こるのか。刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪…

詳細へ

賦霊の自然哲学

賦霊の自然哲学

物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこ…

詳細へ

構造振動学の基礎

構造振動学の基礎

本書の目的は,建物・橋梁・車両・船舶・航空機・ロケットなど軽量構造物の振動現象を…

詳細へ

九州大学出版会

〒819-0385
福岡県福岡市西区元岡744
九州大学パブリック4号館302号室
電話:092-836-8256
FAX:092-836-8236
E-mail : info@kup.or.jp

このページの上部へ