内容紹介
「日本民法典の父」と呼ばれる梅謙次郎(1860-1910)が、若き日にフランス・リヨン大学に提出した博士論文は、和解論であった。梅の和解論がかの地で高い評価を受けたことは夙に知られているが、その内容については必ずしも十分な研究が行われてこなかった。そのため、梅の博士論文と明治民法の和解に関する規定の連続性が正確には理解されず、その結果、現代日本の和解論には、数多の誤解、欠落、混乱が生ずるようになった。
そこで本書は、まず梅が和解論で扱ったテーマ、すなわち和解の定義、性質、能力、権限、目的物、効力、解釈、無効、取消といった問題につき、19世紀フランスの和解論と梅の和解論を対比させつつ論じ、これらの問題に関する当時の議論状況を確認する。また、同時に、梅の和解論の意義と特色も明らかにしている。
次いで、旧民法から明治民法に至る和解関連規定の成立史を跡づけ、明治民法の和解に関する規定が、博士論文における梅の学説の規範的記述であることを確認する。さらに、明治期以降の判例、学説、立法の検討を通じて、民法典制定から現在に至るまでの和解論の展開過程も考察している。
そして、これらの作業を通じて得られた知見をもとに、現在の和解論の誤解や欠落を指摘し、互譲の要否、確定効と民法第696条の関係、和解と錯誤などの問題につき、新たな解釈論を提示する。また、これまでまとまった形で論じられたことのなかった、裁判所の許可を要する和解につき、その概念を整理したうえで、これに検討を加えている。
このように、本書は民法上の和解に関する従来の議論を一変させるものであり、研究者や実務家のみならず、和解による紛争解決に関心を持つすべての方に必携の書といえよう。