内容紹介
17世紀以降の朝鮮は、軍事的緊張の下で商品経済が発展し、市場の構造化が進んだ。本書は、対軍事財政と対商業政策の両側面から朝鮮後期の経済的成熟を検証し、好戦的で侵略的な近代国民経済とは異なる前近代型「国民経済」形成への可能性を展望するものである。
〔軍事政策〕日本や清国の再侵略に備えるため、朝鮮政府は大量の倭銅買い付けや大砲の鋳造に励んだ。壬辰倭乱の経験から、大砲や火縄銃は射程距離の長いものが貴ばれた。加えて、軍用布として強靱な綿布が中国より輸入されたが、平和が続くとソウルの兵士は絹を愛用するようになった。一方北辺の兵士には最後まで粗末な防寒着しか支給されなかった。
〔商業政策〕商品市場の発達は都庫という仲買問屋を生んだ。しかし政府は流通を新財源に組み込めず、都庫は旅客主人として各種の権力機関に納税して庇護を受け、独占的仲買権を行使するようになった。一方政府機関や各邑は官営高利貸しを通して商業的剰余を収取するようになり、被害は一般庶民にも及んだ。国家は商人を総体的に掌握するより、特定商人の囲い込みや高利貸しの強制を通して個別的・間接的に利益を得たと言える。
総じて近世朝鮮は近世中国や日本と比較して強い限界性を帯びながら、銅銭本位制を基軸とした「国民経済」へと収斂しつつあったことを明らかにする。