内容紹介
幕末から高度経済成長期の直前まで、藩や国の開拓政策により長崎県内外に開拓移住した信徒たちは、移住先で次々と教会を建設してきた。わずかな世帯が民家御堂・仮教会を経てこしらえた「山の教会」、外国修道会の主導で海上交通の拠点につくられた半島や島嶼の「海の教会」、日本で最初の邦人司教の意向と信徒の思いがぶつかりあう中で設立された町の教会、長崎県外の移住地に国の補助金で建設された教会も存在する。
長崎県内の教会建設に関しては、大工の棟梁である鉄川与助の尽力がよく知られるが、同時に、開拓移住した信徒自身の教会設立への強い思いが背景にあり、それを原動力としてさまざまな地に教会が設立されてきたことは見過ごされがちであった。また、神父が常駐する教会(主教会)から、巡回教会や集会所が新たに派生することも頻繁に生じたが、時として、地域状況の変容のなかで主教会と巡回教会の地位が入れ替わることもあった。
本書は、社会学の視点から、開拓移住地に教会を設立した集落や地区の信徒の思い、外部社会の信仰の制度化への関与、移住地の都市化に伴う信徒層の分節化と新たな教会の派生等の状況の解明をめざすものである。長崎の潜伏キリシタンは明治以後をどのように生き、カトリック信仰をどのように制度化していったのか。その問いに対する答えの一端が、詳細な現地調査から明らかになる。